第34話 2つのエンゲージリング③

 もと子はリカコのアトリエの近くまでやって来た。するとアトリエの中から何やらもめている音がする。

リカコの悲鳴が聞こえた。もと子は弾かれたようにドアノブを回すも開かない。もと子はスマホを取り出し、リュウに電話した。

「もしもし、もうリカコさんのところ、終わった?…」

「違うの!早く来て!リカコさんが!」

リュウの言葉を遮ってもと子が叫んだ。

「わかった!今行く!」

リュウは人混みをかき分け走り出した。


リュウに助けを呼ぶ間もリカコの悲鳴が聞こえる。もと子は何かないかと周囲を見回した。

あった!



ガシャン!

和也が音のした方を振り向くと割れた植木鉢が転がってきた。壊れたドアの隙間から手を入れ、もと子はドアを開けた。リカコは馬乗りになった男に殴られて顔を腫らしている。

「出ていって!警察呼びますよ!」

もと子が震える声で叫ぶ。残忍な光を目に宿した男はもと子を見据える。

「なんだ、お前は?」

男は一歩一歩、もと子に近づく。


「来ないで!」

叫んだもと子は手にしていたケーキを男に投げつけた。ケーキはみごと命中。男の頭から額にかけて生クリームだらけになった。怯んだ男は最初、何事が起きたかわからず額からこぼれ落ちた生クリームを指で拭って初めて事態を把握した。

「このクソ女!なめたマネしやがって。」

「来るな!来るな!」

もと子は傍にあった傘立ての傘を掴み、振り回した。男はニヤニヤ笑いながらもと子の振り回す傘を掴むともと子の手から奪い取った。


「リカコの前にお前を先にしつけてやるよ。」

男はおもむろにもと子の首に手をかけた。

息ができない。意識がもうろうとしてきた。リュウさん、助けて…


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