第32話 2つのエンゲージリング①

2つのエンゲージリング


 もと子は病院からの帰り道、スーパーの袋を抱えながら家路を急いでいた。エンゲージリングのことも気になるが、この前、リュウからいきなり切り出されたことが大いに気になっている。


それは日勤だった日の夜、リュウと一緒に晩御飯を食べていた時のこと。今夜はリュウが無口なことが気になっていたが仕事で疲れているのかもしれないと、あえてもと子は触れなかった。するとおもむろにリュウが箸を置いた。

「もとちゃん、俺が言い出したことやのに悪いけど、もうエンゲージリングはよそに頼むか?」

「え?なんかあったんですか?」

「いや、なんもないけど。リカコさん、結婚がうまくいってないから、もとちゃんに意地悪したやろ?」

「それは私もムカついたけど、リカコさんが不倫相手に乗り込まれたり、DV受けてるのは心配です。リングはもう微調整だけみたいだし、ここまできたらリングが出来上がるまでリカコさんを見守ってあげたいです。」

もと子は力強くリュウに言い切った。

「そうか、もとちゃんがそう思ってくれるならそうしようか。」

リュウは納得したのか何度もうなずいた。そして大きな手がもと子の手をギュッと握った。

「俺の嫁さんはもとちゃんだけやで。」

もと子は笑顔でうなずいたものの、なぜこんなことをリュウが言うのかわからなかった。


そのことを考えながら歩いているとスマホがなった。リカコからだ。

「もしもし、もとこさん?リカコです。リング、出来上がってん。もと子さんの指に合うよう微調整したいねんけど、近いうち会えないかな?プレゼントの箱の色と包装のことも決めたいので良かったらリュウと二人でアトリエに来てくれる?」

「出来上がったんですね!行きます!リュウさんの都合聞いてまた連絡しますね。」


リングの話を聞いて、さっきまでの憂鬱はすっかりもと子の頭から吹っ飛んでしまった。もと子の嬉しそうな声にリカコも気分が上がってきた。このリングを渡したら、私も…。

リカコは夜空に蒼く光る満月を見上げた。



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