第30話 暴かれた悪事②

 

 副社長、大変なことになりましたね。」

「社長はいつ亡くなってもおかしくない。良美さんと組んで和也を社長にしないようリカコを説得します。」

俊宏は眉間にシワを寄せてリカコに電話した。

「リカコ、今いいか?」

「うん、さっきお客さん帰ったところだから大丈夫。どうしたん、お兄ちゃん。」

俊宏は下妻から聞いた話をリカコにした。

「アイツ、そんなことを。」

「良美さんが僕を嫌っているのは知っているけど…まさかと思いたい。だけどもし良美さんから和也を社長にするために僕を追い出す話が出たら断ってくれへんか。」

「もちろんやん。お兄ちゃん、アタシ、和也と別れたい。最近、昔の男友達が奥さんに指輪をプレゼントしたいからって連絡くれてんね。それを浮気と勘違いした和也から暴力も受けてるねん。お兄ちゃん、ア、アタシ人生やり直せる?」

リカコは最後の方は涙声になっていた。

「当たり前や!お前、暴力までうけてたんか?体、大丈夫なんか?早く病院行って診てもらえよ。そして診断書ももろて来い。」

電話越しでさえ俊宏が苦悩しているのがわかる。

「リカコ、安心しろ。すぐ顧問弁護士の先生に相談する。もう少しだけ頑張れるか?」

「う、うん、うん。」

大粒の涙をこぼしながらリカコは俊宏の言葉に目の前が少しだけ開けたような気がした。



 下妻が横領していたことが明るみに出て、和也はいつ自分のことがバレるのかとヒヤヒヤしていた。そんなある日、仕事中に俊宏から内線電話がかかってきた。

「もしもし、和也くん。ちょっと話があるから副社長室に来てくれへんか?」

とうとう来たか?

和也はどう言い逃れしようかとビクビクしていた。アケミに妊娠を打ち明けられ、認知と養育費を請求された。店の補填もいいだしてきた。社長になってからならともかく、月々のお手当をこんなに増額することなどできない。のらりくらりと逃げていたらアケミは自分の母やリカコの母のところにまで乗り込んできた。二人の母はリカコのせいだとリカコを叱ったが、リカコが納得するわけがない。


それに、あいつは俺に隠れて男を作りやがった。俺を追い出して、男と一緒になるつもりじゃないだろうな。

今、そんなことになったら元のもくあみじゃないか。

憂鬱な気持ちで和也は副社長室のドアをノックした。

「和也です。お兄さん、失礼します。」

和也がドアを開けると、応接セットに俊宏と顧問弁護士が座っていた。

「忙しいところを呼びつけて悪かったね。」

俊宏は柔和な笑みを浮かべて、自分の向かいに座るよう和也を促した。


「なんでしょう?今、忙しいので手短にお願いしますよ。」

和也はいつものように尊大にソファにドッカリと座った。

「ええ、話は簡単です。」

弁護士は一枚の紙をテーブルに出した。

「リカコさんのところは全て書いてあります。和也さんの署名をお願いしますとリカコさんから預かりました。」


和也は怪訝な顔でテーブルに置かれた紙を手に取った。

「離婚届じゃないか!バカバカしい!」

和也は破り捨てた。

「乱暴やな、和也くんは。そんな調子でリカコを殴ってたんか?」

俊宏は平静な顔つきで破り捨てられた離婚届をゴミ箱に入れた。

「そんな事、私がするはずないでしょう。」

「そうですか?でもアケミさんとはずっと不倫関係でしたよね。先日、アケミさんはリカコさんのところにも和也さんの子供を妊娠したと言って現れたそうですよ。」

弁護士は新たに離婚届の入ったファイルを出してきた。

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