第29話 暴かれた悪事①

暴かれた悪事


 俊宏は腹心の部下からの報告を苦虫を噛み潰したような顔で読んでいた。

「本当に横領の事実があったとは。」

「ええ、でも実際に手を下したのは下妻です。」

「まさか下妻さんが?」

下妻は俊宏が信頼を置いていた真面目な女性社員。独身で長く会社に尽くしてくれていた。

「下妻さんがどこに金を流していたのか問い詰めねば。社長の具合が良くないから万が一のことが起こる前にハッキリさせたいですね。」

社長である父は昨年に倒れてから何度も家族が病院に集められるほど具合が悪い。

俊宏の意向を受け、下妻が副社長室に呼ばれた。


コンコン。

「下妻さん?入って下さい。」

俊宏の声に下妻はおそるおそる入ってきた。

「副社長、お呼びでしょうか?な、なんのご用ですか?」

俊宏は経理担当の役員が持ってきた机の上の資料を下妻に渡した。

「この二重帳簿は下妻さんが作ったんですよね。」

「え?え?なんのことですか?」

しらを切ろうとするも、下妻の目は泳ぎ、体は落ち着きなく揺れている。

「もうそういうのが通じる段階じゃないんですよ。」

副社長の俊宏に冷たく一瞥され、下妻は両手で顔を覆うとワッと泣き崩れた。


「すみません、北斗部長に社長が死んだら妻にしてやるからと言われて、つい。」

「社長の娘のリカコと離婚して、あなたと再婚ですか?普通に考えて無理でしょう。」

「でも、社長がなくなって奥さんが会社の株の半分を、副社長とリカコさんが四分の一ずつ相続して、奥さんとリカコさんの株を合わせたら過半数を超えるので副社長を追い出して、次期社長は北斗部長になる。奥さんとそういう約束で北斗家から部長は来られたとおっしゃったんです。」


「仮に社長になったとしても自分を社長にするのに力を貸してくれたリカコを追い出すなんてできないでしょう。」

「私もそう思ったんです。でも部長が社長になったら、北斗財閥を乗り込ませて創業家は一掃すると言われたので、それならあり得るかと思いました。」


俊宏と隣に立つ役員はお互いの顔を見た。二人は下妻の話に正直驚きを隠せなかった。

「あなたは和也に結婚をエサに焚き付けられたんですね。和也に渡した金は和也が結婚前からの付き合いの女のために使われていたんですよ。」

俊宏の話に下妻は目をむいた。

「う、嘘です!彼は私との将来のために隠れて貯金していると言ってました!」

「和也の女は今、妊娠中ですよ。先日、母やリカコのところに乗り込んできたんです。」

「妊娠?」

下妻はその言葉を聞くと床に突っ伏して泣いた。

「あなたには処分が下るまでしばらく家で待機してもらいます。」

役員は下妻を立たせると副社長室から下妻を出した。


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