第28話 結ばれない心⑤

「ちゃうよ。みんなキレイでオシャレでステキな女の子ばっかりやんか。俺、みんな大好きやったで。だから彼女がいないときに付き合ってと言われたら喜んで付き合ってたんや。」

リカコはマコの言葉を思い出した。

リュウはものすごく優しいねんけど、絶対心はくれへんねん…

マコは涙を浮かべていた。リカコにこの話をした次の日、マコはリュウに別れを告げた。そして間髪入れずに他の女の子が告ると、あっさり交際を始めた。

そうだった。リュウと付き合っていた女の子達はみんな、それに耐えきれなくなってリュウに別れを告げたのだった。


リュウと自分は結ばれることはないのだと思い知らされたリカコはショックを受けた。だが、そんな素振りは少しも見せずリュウに微笑んだ。

「ねえ、そういえばリュウの今日のコロン。もと子さんのチョイスでしよ?おそろいのシトラスなんやね。」

「ん?このコロンは俺がずっと昔からプライベートで使ってるもんやで。もとちゃんの方が、俺のコロンが好きやって言ってきたから、二人でシェアしてるねん。」

「でもさ、クラブではいつもムスクやったやん。リュウはムスクが好きなんちゃうん?」

「別に嫌いじゃないけど、元カノのみんながそれぞれコロンくれるから、会う時はつけてただけや。」

ああ、そうか。

もと子さんはそのままのリュウを愛しているのに、アタシたちはコロンをはじめ、服や身の回りのもの、行くお店なんかも全て自分好みにリュウを変えたがった。

アタシたちはそのままのリュウを好きなわけじゃなかったんや。

リカコはリュウがもと子を大切にするわけがわかった気がした。


今のリカコはショックではあるがちょっぴり清々しい気持ちも感じている。

もう後ろじゃなくて前を向かなきゃね。

リカコは時計を見た。

「そろそろ帰るわ。今、落ち着くまでホテル暮らしやねん。」

「そうなんや。ホテルまでおくってくわ。」


リュウとリカコはまた昔話に花を咲かせていた。

「この先のホテルやねん。もう見えてるからここでいいよ。」

リカコはリュウに手を振ろうと一歩踏み出した。

キャア!

暗くて見えなかった段差につまずき、転びそうになった。だが道路に手をつく前にリュウはリカコの腕を掴んだ。

痛い!

リカコは苦痛に顔を歪めた。その様子にリュウは驚いた。


「リカコさん、ごめん!」

リュウはリカコの腕をまくりあげた。そこにはヤケドではない大きなアザがあった。

慌ててリカコは腕を隠した。

「これはなんでもないねん。ちょっと転んだだけ。」

「ウソや。ダンナにやられたんやろ。」

「そ、そんなことないよ。」

「リカコさん、もとちゃんがDVちゃうかって教えてくれてん。そんなダンナ、もうええやろ?」

「でも和也と結婚していることで店やアトリエの費用の補填を実家にしてもらってるから、簡単には離婚なんてできないんよ。」


「じゃあこのままにするんか?大丈夫なんか?リカコさんはこれからもダンナに振り回されてええんか?」

リュウはリカコの両方の肩を掴んだ。リカコはリュウの手を振りほどいた。

「…な、なによ!アタシだって隣にアンタがいつもいてくれたらもと子さんのお母さんみたいに、あんな家飛び出すわ。」

「リカコさん…」

「なんにもできないくせに。もう他の女のものになっちゃったくせに、放っといて!」

最後は涙声になってリカコはホテルへと駆け出した。リュウはただ立ち尽くすことしかできなかった。

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