第27話 結ばれない心④

 もと子がリカコのアトリエを訪れてからリュウはずっとリカコが気になっていた。

リカコさん、大丈夫なんか?

そんな時、仕事でリカコのアトリエの近くに来た。仕事が終わり、腕時計を見ると7時。

いっちょ電話してみるか?

リュウはリカコに電話をした。コール2回でリカコが出た。

「あ、リカコさん?リュウです。今、仕事終わってリカコさんのアトリエ近くにおるねんけど、良かったら飯でもどう?」

「いいね、軽く飲もか。」


リュウはアトリエまでリカコを迎えに来た。リカコとリュウはアトリエ近くのこじんまりしたレストランに入った。照明を押さえた店内はゆったりと過ごせる。まずはワインで乾杯。カチンと音がなる。

「ええの?もと子さん、待ってるんちゃうん?」

「今夜は夜勤やねん。それにこの間リカコさんに会った時の事、もとちゃんも気にしてた。」

グラスを持つリカコは下を向き、フッと笑った。

「ごめん、恥ずかしいところ見られてしまったんよね。」

「リカコさん、大丈夫なん?」

「うん。たしかに結婚当初からダンナはほとんど帰ってこなかったりで相手の女の言うとおりなんよ。でもさ、実家の会社絡みの結婚やからね。簡単にはいかへんねん。今日は楽しい話をしようよ。ここのキッシュ、イケるんよ。」

明るく微笑んだリカコにこう言われ、リュウは並べられたオードブルに手を伸ばした。


リカコはオーダーした何種類かのキッシュをつまみながら仕事のこと、リュウと共通の友達の近況を楽しげに話した。

「あの頃の友達もずいぶん変わったよね。結婚しちゃった子も多いし。」

「そういや、マコさん元気?」

リュウはリカコと仲の良かった元カノのマコのことを聞いた。

「マコは去年結婚して今、東京におるよ。ダンナの愚痴も多いけど、結構仲良く夫婦で出歩いたりしてるみたい。」

「マコさん、文句多いけど楽しい人やったな。」

リカコの話をリュウはニコニコと聞いている。ほろ酔い加減のリカコは、ふとオシャベリをやめた。


「ねえ、マコと別れたあと、もしアタシが告ったら付き合ってくれてた?」

「もちろん。リカコさんなら付き合ったよ。」

「ホント?じゃあもし付き合ってたら、アタシたち結婚してたかもね。」

リカコは切なげなまなざしでリュウを見つめた。しかしリュウは軽く笑って、ナイナイと右手を振った。


「そんなんありえへんで。俺とリカコさんらは金銭感覚が違いすぎるもん。あの頃、俺の住んでたボロアパート見たらリカコさん、卒倒するで。」

「アンタは遊びって割り切ってたってこと?」

リカコは震えそうになる声をどうにかこらえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る