第26話 結ばれない心③

 リカコはもと子を店から出すと工房へ戻った。ドッと疲れが出て、何もする気になれずボンヤリとしていた。時間が経ってようやくノロノロと後片付けをしているとスマホが鳴った。それは母良美からの電話だった。

「リカコのところにも和也さんの浮気相手が来たでしょ?アンタ、なに先越されてんの?和也さんのお母さんからも電話かかってきてんよ。結婚前からの女と切れてないなんてリカコの妻としての努力が足らないからだって言われたわ。もう悔しくって。アンタのせいよ。サッサと和也さんの子供産みなさいよ!」


良美はいつものように言いたいことだけを言って電話を切った。ますますグッタリ。リカコは兄の俊宏に電話をかけた。俊宏は父の先妻の子供でリカコとは異母兄妹。でも年の離れた俊宏はヒステリー気味の母良美と違っていつもリカコに優しく接してくれた。しかし良美は自分の子でない俊宏を敵視していた。

「もしもし、お兄ちゃん?リカコです。まだ仕事中やんね。ごめん。」

「ん?どうしたリカコ?」

「実はね、今日、和也の彼女が来てね、…」

リカコは俊宏に和也の彼女が妊娠していること、認知や養育費、和也が持たせた店の補填や月々の生活費を払えと言ってきたことを全て話した。


「リカコ、お前が和也に未練があるなら仕方ないけど、そうじゃないならうちに帰ってこい!」

俊宏は静かに怒りをたぎらせた。

「僕の大事な妹をこんな目にあわせて。僕は和也を許さんで。」

俊宏の言葉が心底嬉しかった。リカコは溢れる涙を拭いながら言葉を続けた。

「ありがとう、お兄ちゃん。アタシ、和也にはなんの未練もないよ。だって心身ともに夫婦になったことなんてないもん。生活費ももらってないし。でも、お母さんからはサッサと和也の子供を産まないアタシが悪いって言われちゃったから家には入れてもらえないと思う。」

「なんでや、良美さん!」

俊宏は大きなため息をついた。

「じゃあホテルに泊まれ。金は僕が出す。リカコはなんにも心配しなくていい。明日、会社に顔を出せよ。今後のこと相談しよ。」

リカコは俊宏が手配したホテルに行くためにタクシーに乗った。



 電話を切った俊宏はリカコの話の中で気になることがあった。

 和也が東京から連れてきた女に店を持たせて、毎月生活費も出しているという。いくら妻のリカコに生活費を渡さず全て自分で使っているとはいえ月々の給料だけで賄えるものなのか?俊宏はリカコの泊まるホテルの手配を終えるとすぐ腹心の部下に電話をした。

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