第23話 嵐の始まり④
「ごめん、悪いけど着替えるの手伝ってくれる?」
もと子は快くうなずいた。
「シャツ、引っぱってくれる?着替えるの痛くて。」
もと子はシャツをリカコの肩から外してやり、目をむいた。
「リカコさん、このアザ、どうしたんですか?」
リカコの肩や脇腹に大きなアザがあった。
「あ、それね、この間ころんだんよ。考え事しながら歩くとアカンね。」
慌てたようにリカコが答えた。
新しいコーヒーを淹れるのを手伝い、もと子はリカコの代わりにテーブルに運んだ。
「助けてくれてありがとう。さっきは意地悪してごめんなさい。もと子さんとリュウがあんまり仲良しなので羨ましくなっちゃった。それだけだからね。」
「あ、いえ、大丈夫です。」
そうは言ってもリカコの本心がそうじゃないのは同じ男を好きなもの同士、手に取るようにわかる。リカコの置かれた状況を考えると、なんと声をかけたらいいものか、もと子には見当がつかない。だが妻として言うべきことは言わねばならない。
新しいコーヒーを手にしたもと子はリカコをしっかりと見つめた。
「リカコさん、私、誰にもリュウさんを渡すつもりはないです。リカコさんにだって渡さないです。でもリカコさんが辛いままでいるのも嫌です。」
「リュウのことはホント、ただの友達だからね。気にしないでね。」
リカコは痛々しい作り笑いでごまかした。
「もと子さんにはわからんやろうけど、私は実家の会社の関係があるから簡単に離婚できないねん。だからもと子さんは心配しなくてええんよ。」
もと子のまっすぐなまなざしにリカコは寂しげに笑った。
「わからないことはないです。うちの母、リカコさんと同じ立場でしたから。といっても親に決められた結婚を前に駆け落ちしましたけど。」
リカコは驚いた顔をして、飲みかけのコーヒーをテーブルに置いた。
「駆け落ちだったから裕福じゃなかったです。でも両親が死ぬまで家族3人、とっても幸せでしたよ。」
「お母さん、勇気あったんやね。でもお父さんが隣にいたからできたんじゃない?私にはそんな人いないから無理やわ。」
「リカコさん、それでいいんですか?」
「ダンナの、北斗財閥の血の繋がった孫を生むことが出来れば離婚してもいいって母も言ってるねんね。だから頑張って早く一人産むわ。」
「そんな…」
「さあ、この話はもう終わりね。あとは微調整するからリングができたらまた連絡するね。」
リカコは追い立てるようにもと子を店から出した。
アタシだってリュウが隣にいてくれたら。
リカコは後ろ手に閉めたドアにもたれて、きつく目を閉じた。
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