第22話 嵐の始まり③

もと子は震える手でバッグからスマホを取り出し、電話をかけようとした。

「アンタ、何してんの?」

アケミがもと子のスマホを取り上げようと手を伸ばした。アケミの手がスマホに届く寸前にリカコがスマホを取り上げた。

「リカコさん、警察に電話して!頭のおかしい女が営業妨害してる、助けて! って。」


ハッとしたリカコがもと子のスマホを持ったまま奥の工房に駆け込んだ。

「もしもし、警察ですか?…」

警察の言葉を聞き、アケミは立ち上がった。店のドアを開けると振り返った。

「これから何度もお目にかかることになると思うわ、奥さん。またね。」

アケミはニヤリと笑いながら出ていった。


「リカコさん、塩ありませんか?」

もと子は工房で座り込んでいるリカコに尋ねた。リカコは力なく立ち上がり、流し台の上の棚から取った塩をもと子に渡した。

もと子はドアから店の外へ盛大に塩をまいた。

「二度と来るな!バカ女!」


もと子が店内に戻るとまだ青い顔をしたリカコがやって来た。

「ゴメンね。変なことに巻き込んじゃって。」

もと子はううん、と頭を振った。

「もと子さん、新しいコーヒーを入れ直すね。」

リカコは冷えてしまったコーヒーを下げ、新たに湯気の立つコーヒーをテーブルに運んで来た。だがテーブルに置こうとして手が滑った。

「熱っ!」

コーヒーがリカコの腕や胸ににかかってしまい、腕が赤く腫れてきた。

「リカコさん、早く冷やして下さい。」

もと子は大丈夫と言うリカコを工房の流し台に連れていき、流水の下に赤く腫れた腕を置いた。


しばらく冷たい水に腕をさらしているとピリピリとした痛みが治まってきた。

「ありがとう。痛みがおさまってきたから着替えるわ。」

リカコはもと子に弱々しく微笑んだ。

「じゃあ、お店の方で待ってますね。」

もと子は工房から出て、イスに腰かけた。さっきまではリカコの意地悪に憤慨していたが、今は微塵もない。

落ち着かなきゃ。

ようやく気持ちが落ち着いて、ふと時計を見た。着替えにしては時間がかかりすぎている。先程のヤケドが思ったよりひどかったのか?もと子は心配になりリカコの様子を見ることにした。

「大丈夫ですか?」

ノックと同時に工房へのドアを開けると着替えに手間取っているリカコの姿が見えた。

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