第19話 かなわぬ恋②

デザイン画を工房に置きに行くとリカコはコーヒーを手に現れた。

「ねぇねぇ、リュウにチラッと聞いたんだけど初めは妹みたいな関係だったんでしょ?」

「ええ、そうなんです。私がバイト先でお客さんにしつこくからまれてたらリュウさんが助けてくれたんです。そのあと私がバイトなくして困ってたら、リュウさんが新しいバイトを一緒に探してくれたり、親身に相談にのってくれたんです。」

「バイトないとお小遣いがなくなって困るよね。」

「あ、いえ。私が小学生の時に両親が亡くなったもので奨学金とバイトで学校行ってたんです。」


「もと子さん、大変だったんやね。でも弟キャラのリュウに妹分って、結構リュウとしては大変だったのかも。」

「リュウさんが弟キャラ?リュウさんは弟さんの面倒みて大学まで出してあげた、しっかり者のお兄さんでしたよ。」

「弟を大学って親がお金出すでしょ?」

「あの、言っていいのかわかりませんけどリュウさんのご両親は離婚されてお母さんはリュウさんと弟さんを置いて男の人とどこかに行っちゃったんです。」

え?リュウに弟がいるのは知ってたけど、生活や学費の面倒をみてた?

リカコはリュウの見知らぬ面を見た思いだった。

「だから家事ができない私に料理や家事を教えてくれて私もリュウさんに育ててもらったようなもんです。」

もと子はテヘヘと笑った。


なに、笑ってんの?

童顔のもと子の幸せそうな笑顔がリカコには憎らしい。

「ということはリュウにとっては同情が愛に変わったって感じやね。」

コーヒーをすすりながら、リカコはサラリと言った。

「ま、まあそうですかね。」

「なるほどね。不思議だったんよ。モデルみたいにキレイな女の子を次々と彼女にしていたリュウがどうしてもと子さんを選んだんだろうって。」

「…」

「この間、初めてもと子さんと会った時にもと子さん、川端君だっけ?男の子と来てたやん。すごくお似合いのカップルやなと思ったら川端君はもと子さんのただの同僚だっていうやん。驚いたわ。」

ツヤツヤのロングヘアに整った顔。しなやかでキラキラ輝く美しいリカコ。もと子とはレベルが違いすぎる。濃く長いまつ毛に縁取られた美しいリカコのアーモンドアイは挑戦的にもと子を見る。


「ねえ、同情は同情に戻るかもよ。リュウが税理士になったって知ってたら、あの頃の彼女が奥さんだったやろね。」

急に態度の変わったリカコにもと子はコーヒーのカップを持つ手が震えた。

言い返さなきゃ!私はリュウさんの奥さんなんだもん。

そう思うもののリカコの美しさに圧倒されてもと子は口をモゴモゴさせるのが精一杯。

「そ、そんなことないです。」

もと子が立ち上がった時、アトリエのドアが開いた。

「こんにちは。お邪魔します。」

リカコともと子が振り向くと妖艶な若い女が立っていた。


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