第17話 エンゲージリング⑥

なんなの?最近、機嫌が悪い。

前は私なんて無視してたくせに。

とはいえ、和也がグラスを叩き割ったのなら片付けないと自分がケガをするかもしれない。ため息をつきながらリカコはリビングにむかい、割れたグラスのかけらを集めて捨てた。飛び散ったビールが染み込んだカーペットを濡らしたタオルでトントンとたたいていると、和也が部屋から出てきた。


「後片付けぐらい自分でしてほしいわ。」

リカコのつぶやきが終わるやいなやリカコはリビングの壁側に蹴り飛ばされた。背の低いチェストでリカコは横っ腹と腕をしこたま打った。

うう…。痛みでうずくまったリカコ。

「わきまえないで生意気なこと言うからだ。思い知ったか!」

口元に笑いを浮かべて和也は部屋に戻った。


なんなのよ、アイツ。

リカコは痛む腕をかばいながらビール臭くなったタオルをゴミ箱に放り込み、ベッドに倒れ込んだ。



その頃、リュウ、もと子、川端の三人は先程のカフェ近くの居酒屋にいた。

「今日は川端君、ついてきてくれてありがとう。」

「どういたしまして棚橋さん。それにしてもリカコさん、キレイな人やったね。」

川端はもと子の応援に来たはずが、リカコの魅力にノックアウトされたよう。

「川端君、惚れたんちゃうか?残念、リカコさんは人妻や。」

「リカコさん、美人な上に気さくだし。あんな人を奥さんに出来る人ってどんな人なんだろ?ね、川端君、今後のために是非知りたいよね。リュウさん、教えて。」

もと子はネギ焼きを箸でつまみながらリュウに聞いた。


「それがなあ、俺は会ったことないねん。昔聞いた話では財閥系の御曹司らしいで。」

「ひゃー!リカコさん、あれだけの美人ですもんね。庶民の男なんて相手にならないですよね。」

川端は残念そうにつぶやいた。

「まあな。リカコさんらは金銭感覚が違うし、住む世界が違うねん。諦めて、川端君。」

残念、残念と言いながらもと子は川端の皿に来たばかりの唐揚げを入れた。

「ちょっとごめんね。」

そう言うと、ご機嫌なもと子はトイレに立った。


もと子がテーブルから少し離れたところで川端はリュウに顔を向けた。

「リュウさん、リカコさんは元彼女ですか?」

「いや、友達やで。」

「だったらいいんですけど、リカコさんはリュウさんのことをただの友達と思ってないかもしれませんよ。」

ないない、とリュウは手を振った。

「カフェでリュウさんがトイレに立った時、なんとも言えない顔でリュウさんの後ろ姿をじっと見てましたよ。」

「え?ホンマか…ありがとう、気をつけるわ。川端君、いろいろありがとうな。」

「早く指輪、もらった方がいいですね。」

川端はそう言うと、唐揚げを再び食べ始めた。


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