第15話 エンゲージリング④

「ご結婚されてるんですね。」

「そうやねん。自分がされたら嫌なことぐらい気が付かないとアカンのにね。ごめんなさい。」

もと子はリカコの美しさに気後れしながらもリカコが結婚していることに少し安堵した。

「あの、それでや、もとちゃんにリカコさんが提案してくれてな。」

「うん。私、デザイナーでしょ。リュウ君からもと子さんのエンゲージリングの注文受けてね。」

「え?リュウさん、それは私、断りましたよね。」

驚いたもと子はリュウを見る。

「もと子さん、もうリュウ君からお金もらってるの。それでね、悪いけどそんなに頂いた額が高額じゃないからフルオーダーじゃなくてこのパターンから選んでもらえる?それをベースに考えてみるわ。」

いいの?とリュウを見るもと子。リュウは笑顔でうなずく。

「もとちゃん、もう観念してな。」

もと子ははにかみながら笑顔でリュウにうなずき、リカコが出してきたカタログを手にした。


「こちらがリングの形の種類やねんね。スタンダードなのはこの立て爪でダイヤを支えるソリティアというの。メインの石の脇に小さな石を入れるサイドストーンや、リング全体に小さな石を入れるエタニティリングやリングにウエーブを入れたのもあるよ。」

リカコはさらに模型をもと子の前に並べた。

「石もいろいろカッティングがあってね、スタンダードなのは丸いラウンド。一番ダイヤを輝かせるんよ。でも話だけじゃイメージわかないでしょ。ラウンドの石をリングにはめたタイプの模型も持ってきたから一度はめてみて。」

もと子はおそるおそる模型を指にはめた。カフェのライトにあてるとガラス玉とはいえリングはキラキラと光る。


「もと子さんの指に似合うかも見てよ。」

熱心にもと子が指輪を試し始めたのを確認して、リュウは一安心。川端に会釈した。

「俺、トイレ行ってくる。」

リュウが立ち上がり、トイレに向かった。指輪をながめるのにもと子は夢中。川端はその様子を微笑ましく見ていたがふと目を上げた。さっきまで微笑んでいたリカコは寂しげにじっとリュウの後ろ姿を見ていた。

これは?

川端の胸はザワザワした。

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