第11話 妻の彼氏?③

 リュウがリカコに相談するものの、なかなかエンゲージリングを決められない。そんなとき久しぶりに川端からラインが入った。

仕事帰り、歩いていたリュウはいつものように川端のラインを見て、ひっくり返りそうになった。


「リュウさん、見損ないました。きれいな女の人と腕組んでデパートに行ったそうですね。彼女に指輪を買ってあげたんですか?棚橋さんが可愛そうです。」


リュウは慌てて川端に電話をかけた。

「もしもし川端君、俺や。須崎です。」

「なんですか、浮気者のリュウさん。」

クラブのスタッフ時代のリュウの大ファンの川端はいつもならリュウからの電話に大喜び。だが今日は驚くほど冷たい。

「待って、それ誤解だから!」

「浮気してる人はみんなそう言うんですよね。このこと、職場で噂になってます。早晩、棚橋さんの耳にはいりますよ。」

「えーっアカン!それアカン!川端君、助けて!」

「自業自得って言葉知ってます?」

「だから、違うって!俺、もとちゃんにエンゲージリングをサプライズで渡そうと思って…」

リュウは状況を説明した。


「なんだ、そうだったんですか。もう紛らわしい。でも職場の先輩が見てたから近々、棚橋さんの耳に入ると思いますよ。棚橋さんの耳に入る前にリュウさん、棚橋さんにちゃんと言ったほうがいいですよ。」

「う、でもサプライズが…」

「何いってんですか?この話をしても棚橋さんに信じてもらえるかも怪しいのに。」

「そ、そうやな。」

「クラブ時代のあのキレイな人と腕組んでたんでしょ?クラブ時代のリュウさんを知らなかったらなんで腕まで組むの?ってなりますよ。」

サプライズができなくなり、ガックリ来たリュウに川端は、できるだけフォローはするから早く謝ったほうがいいと念を押した。


そして、川端の予言通りになったのである。ただもと子が素直に信じてくれたことにリュウはホッとした。

「もとちゃん、カタログは座ってゆっくり見たらいいやん。テーブルに行こう。」

リュウはもと子と自分のためにコーヒーを入れた。カタログを見ていたもと子は顔を上げ、コーヒーを飲もうとカップに口をつけたリュウと目を合わせた。


「リュウさんの気持ち、とっても嬉しいです。でも、なんで女の人と腕組まないといけないの?」

「ゴメン、クラブの時のノリで、つい。」

「もう二度と女の人と腕組んだりしないで!」

いつにない怒りのこもったもと子のまなざしにリュウは平謝り。


「わかってくれたらもういいです。」

そう言うともと子はカタログを閉じた。

「欲しいの決まった?」

もと子はううん、と首を振った。

「なかった?じゃあ、オーダーメイドするか?」

「リュウさんの気持ちだけで十分。私には結婚指輪がありますから。」

「なんで、そんなん言うんや?」

リュウが聞いても、もと子はなかなか口を開かない。


「もとちゃんにエンゲージリングをプレゼントさせてほしいねん。要らんのやったらちゃんと訳を聞かせて欲しい。じゃないと俺、納得できんわ。」

リュウに強く言われてもと子はボソボソと答えた。

「だって…高いんやもん。」

もと子は立ち上がり、おやすみなさいと言うとベッドに潜り込んでしまった。


もと子は案外、ガンコ。これは困ったことになった。リュウは頭を抱えた。しばらく考えたものの何も妙案は浮かばない。

リカコさんに助けてもらおう!リュウはスマホをいじり始めた。

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