第8話 リカコ③

「ねえ、アンタ結婚したって聞いたけど本当みたいね。誰?クラブのメンバーでしょ?」

人気スタッフだったリュウはクラブにたくさんの取り巻きの美女がいた。そしていつもその中の誰かと付き合っていた。


「違う、違う。うちの嫁さんはクラブには行ったことないねん。」

リュウの口から"嫁さん"という言葉がこぼれてリカコはハッとした。

「え、なにそれ?どんな子?どこで知り合ったん?」

「普通の子やで。嫁さんがバイト先で変な奴に絡まれてるのを助けたのがキッカケで知り合ってな。長いこと妹みたいに思っててんけど、まあいろいろあって気がついたら結婚してたわ。」


「そっか。で、奥さんの写真見せてよ。」

リュウは、恥ずかしいなあと言いながらスマホを取り出してリカコに見せた。そこにはどこにでもいそうな童顔のおとなしそうな女の子がリュウに肩を抱かれている写真があった。リカコはクラブ時代のリュウの元彼女達との違いに驚いた。


「ビックリ!おとなしそうな子。元カノ達と全然違うやん。ホントはこういう子がタイプやったんか。 あ、そういえばアンタ、店、辞めたんでしょ?今、何してるの?」

「俺、今、税理士。」

リュウの言葉にリカコは目をまん丸にした。そういえば昔は長めの髪をワイルドな感じにしていたのが目の前のリュウは短い髪でスーツが似合うビジネスマン風。


「本当に?なんで税理士?」

「俺、高校が商業でさ、簿記やってたから税理士を目指してたんや。店に入ってから十年かかってんけどね。リカコさんはどうなん?たしか結婚したんやんな。家で主婦してんの?」

「ううん、結婚はしてるけど、実家が宝石商だからジュエリーデザイナーしてるんよ。だからリュウ、エンゲージリングのことでわからないことあったら相談にのるよ。ライン交換する?」

「ホント?リカコさん、また相談のって。」

ラインを交換したあと、リカコは自分の店の名刺をリュウに渡した。

「そろそろ主婦は帰るわ。おノロケごちそうさま。」

リカコに合わせてリュウも立ち上がり、二人は喫茶店の前で別れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る