第4話 夫のかくしごと④

 やっぱり。仕事じゃなかったんだ。

油断すると涙がこぼれそうになる。

もと子の心に出来ていたポツリとした小さなシミは先輩の話を聞いてどんどん黒く大きくなっていった。もと子はやっとの思いでアパートに着いた。


玄関を開けるとリュウの明るい声が迎えた。

「おかえり、もとちゃん。ご飯、今出来たところや。ナイスタイミングやな。」

「た、ただいま。」

おぼつかない足取りで部屋に入り、着替え始める。でも指先が震えていつものようには着替えられない。ようやく着替えてテーブルにつく。


「今日はもとちゃんの好きなオムライスにしたで。さあ、食べよ。」

リュウは手を合わせるとサッサと食べ始めた。

もと子のオムライスにはケチャップで"もと子"と書いてある。茶目っ気があるのはいつものリュウ。だけど今日はスプーンを持ったもののなかなかもと子は食べる気になれなかった。


どうしたものかと思いながらオムライスを口に運んでいるとリュウのスマホが鳴った。この頃のリュウはいつもスマホを手元に置いている。電話がかかるとすぐ仕事部屋に入ってしまう。今日もスマホを取るとすぐ仕事部屋に入ってしまった。今夜は笑い声も漏れて来る。もと子はもう一口も食べられなくなってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る