第3話 夫のかくしごと③
観音様に参拝して数日後、もと子は相変わらずのモヤモヤした気持ちを抱えたままその日の勤務を終え、更衣室にいた。着替えを終え、出ようとすると同じ職場の先輩看護師に声をかけられた。
「棚橋さん、駅まで一緒に帰ろう。」
もと子は職場では旧姓で呼ばれる。先輩はいつも面倒をみてくれる仲良しで、近々、同僚の看護師と結婚する予定。
「先輩、もうすぐ結婚式ですね。準備進んでます?」
「うん、なんとかね。この間、彼と結婚指輪を見に行ってん。それでね…」
言葉に詰まった先輩は困った顔をした。不思議そうに先輩を見るもと子。先輩は意を決したように口を開いた。
「うん、やっぱり言う。あのね、さっき言ったようにデパートに結婚指輪を見に行ってんね。そしたら棚橋さんのダンナさんがきれいな女の人と腕組んでリングを見てた。」
もと子は固まってしまった。
「間違いかもしれないけど、棚橋さんがウチの病院に入院してた時、よくダンナさんが来てたでしょ。彼も見てたけどダンナさんだと思う。棚橋さん、嫌なこと話してゴメン。」
先輩は頭を下げた。慌ててもと子は先輩に手を振った。
「あ、いえ、大丈夫です。教えてくださってありがとうございます。うちのダンナの前の職場のお客さんに頼まれたのかもしれないし、ダンナに聞いてみますね。」
どうにか笑顔を作ったものの血の気がひく思いだった。心配する先輩と駅で別れ、もと子は倒れそうになりながら家路を急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます