第3話 夫のかくしごと③

 観音様に参拝して数日後、もと子は相変わらずのモヤモヤした気持ちを抱えたままその日の勤務を終え、更衣室にいた。着替えを終え、出ようとすると同じ職場の先輩看護師に声をかけられた。

「棚橋さん、駅まで一緒に帰ろう。」

もと子は職場では旧姓で呼ばれる。先輩はいつも面倒をみてくれる仲良しで、近々、同僚の看護師と結婚する予定。


「先輩、もうすぐ結婚式ですね。準備進んでます?」

「うん、なんとかね。この間、彼と結婚指輪を見に行ってん。それでね…」

言葉に詰まった先輩は困った顔をした。不思議そうに先輩を見るもと子。先輩は意を決したように口を開いた。


「うん、やっぱり言う。あのね、さっき言ったようにデパートに結婚指輪を見に行ってんね。そしたら棚橋さんのダンナさんがきれいな女の人と腕組んでリングを見てた。」

もと子は固まってしまった。


「間違いかもしれないけど、棚橋さんがウチの病院に入院してた時、よくダンナさんが来てたでしょ。彼も見てたけどダンナさんだと思う。棚橋さん、嫌なこと話してゴメン。」

先輩は頭を下げた。慌ててもと子は先輩に手を振った。


「あ、いえ、大丈夫です。教えてくださってありがとうございます。うちのダンナの前の職場のお客さんに頼まれたのかもしれないし、ダンナに聞いてみますね。」

どうにか笑顔を作ったものの血の気がひく思いだった。心配する先輩と駅で別れ、もと子は倒れそうになりながら家路を急いだ。

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