第45話 海神の力
「エレナのヤツ全然大丈夫じゃねえじゃねえか!」
体調が万全で無い状態で強力な魔法を使ったために、暴走してしまったのであろう。
「ええい、これはどうにかならんのか!?」
「わらわは寒さに強いが、他の者はそうではあるまい? これを放置しておけば天界丸ごと攻め落とせるのでは無かろうか」
「そんなことをしたら僕たちも死んじゃうね」
恐ろしい発想をしている海神を放置しながら、とりあえず魔法陣からエレナを引き離す。
一度暴走状態となった魔法は術者と離れ魔力のパスが切れても、空気中から魔力を吸い上げ効力を発揮し続けてしまう。
どうにかして魔法自体を壊さなければならないのだ。
しかしそれは生半可なことではない。
これだけの規模の魔法を無理やり破壊すれば、その瞬間大規模な温度低下が辺り一帯にばらまかれることになる。
当然その時点で皆凍死してしまうだろう。
「皆、悪い知らせだ。扉が寒さで歪んで開かなくなった。このままじゃ僕たち凍死しちゃうね」
「ははっ最悪の状況じゃな」
「笑いごとでは無いのだが!?」
「ひとまず魔法陣を我の壁で囲った。これでしばらくは温度の低下を防げるはずだ」
国王は魔法陣を壁で囲い、温度の低下を中に封じ込めた。
こうして瞬時に対応が出来る辺り、経験の差というものを感じてしまう。
魔王になってからはほとんど全力で戦うことも無かったため、戦闘経験と言う面では我はまだまだなのだ。
「だけどそれだってその場しのぎでしか無いよな……」
「なら、わらわの出番じゃな」
海神は自信満々にそう言うと、魔法陣へと向かって歩き出した。
「何か策でもあんのか?」
「当然じゃ。わらわは仮にも海神じゃぞ?」
「それはアンタが自称しているだけだろ」
「それはそうじゃが……見ておればその凄さもわかるというものじゃ」
海神は国王の張った壁を通り抜け、魔法陣へと向かう。
あの壁を通り抜けたというだけで既に意味が分からないが、まだ何かをするつもりなのだろう。
「海神と言われる所以を見せてやろう」
言われているというか自称しているだけじゃないかと言いかけるが、海神に集まっていく魔力が尋常ではない程の量であるため本能的に彼女の持つ力が本物であることを理解する。
「ヌンッ!!」
突然、海神は魔法陣を全力で殴った。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
強力な魔法で中和するわけでも無く、解除魔法を使うわけでも無い。
ただ純粋な物理能力で魔法を破壊したのだ。
いや、魔力を集めていたことから身体能力を上昇させる魔法を使っているのだろう。
それでも魔法を直接破壊出来る力というのは規格外でしか無いのだが。
「どうじゃわらわの力は」
「恐ろしい……。私たちはそんな力をもっているヤツにマッサージされてたのか?」
アリサが珍しく怯えている。貴重な姿をもっと眺めていたいところだが、我も海神にマッサージされていたことを考えるとだんだん血の気が引いてきてそれどころでは無くなってしまう。
「そう怖がるでない。わらわは可愛らしい女の子には危害は加えん」
「そうは言ってもな……」
「それよりも、魔法陣が破壊された衝撃がそろそろ発動するじゃろう。ある程度は抑えられるが一応耐える準備をしておくのじゃ」
海神は国王の壁の中に、さらに水の壁を何重にも張る。
この壁により、温度変化が外に漏れだすのを極限まで抑えることに成功した。
しかし、それでも外へと漏れ出す影響はないわけでは無く気温はどんどん下がっていく。
「ディアベル……パワードスーツを解除してくれないか」
「……アリサ?」
アリサがそう言うのでパワードスーツを解除する。
このスーツは属性攻撃を無効化することは出来るが空調設備は付いていないため、温度変化には弱い。そのため着ていても着ていなくてもほとんど変わりはない。
「ディアベル……これでどうだ?」
スーツを解除した途端、後ろから抱き着かれた。
アリサはいつもの鎧では無く生地の薄い布の服を纏っているのか、体温が伝わって来る。
「こうしていればあったまるだろ?」
「それはそうだが……」
体温を確保するだけであれば炎魔法を使えば良い話で、わざわざこのようなことをしなくとも他に方法はあるのだ。
それでも低い気温の中わざわざ我のために、体温の伝わりやすいような薄い服を着て……。
「まあ私の身体能力ならこれくらいの温度は耐えられるからな。実際はただ抱き着きたかっただけと言うのもある」
「ほとんど私欲では無いか」
我の感動を返して欲しい。
しかしそれはそれとして、やわらかなアリサの肌と触れているのは悪くない。
敵地のど真ん中だと言うのに気が緩んでしまう。
「さて、魔法がどうにかなったのなら後は扉が開く気温になるまで待とうか」
「それなら炎魔法で無理やりに温めよう」
我は扉に燃え移らない距離で炎魔法を発動させ、温度を上げる。
仮に燃え移ってしまっても海神の力があれば鎮火は容易いだろうが、下手に塔全体に燃え移ればディアウスもろとも我らも焼死する運命だ。
「よし、なんとか開いた。ここから上がれば塔の内部に入れる。出口が見張られているかもしれないから、ゆっくり侵入しよう」
我らは再び、神を先頭にして進み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます