第44話 能力の把握はやはり大事だ
「だ、大丈夫なのか?」
エレナの顔色はもはや生きているのか怪しい程に青白くなっている。目に見えて体調が良くないことは明らかだ。
魔王になって初めての演説を思い出すな。
緊張が凄まじく生きた心地がせんかった。
「なんとか、魔法を使って見せますね……」
エレナはそう言いながら魔法陣を展開するが、体調が良くない状態での魔法発動であるためか歪な形となってしまっている。
数秒の後に、温度変化魔法を発動させることには成功する。
壁に張り付いていた虫たちは次々に動きを停止させ地面に落ちて行く。
また際限なく召喚されてはこちらへ飛んできていた虫たちも召喚された瞬間にポトリと落ちて行くため、もはや警戒するものにはなり得なかった。
「はぁ……なんとかこれで……あぁやっぱり無理です。動かなくても見るだけでうぷぇっ」
「いや、上出来だ。エレナは休んでいてくれ」
「ということだけどバドン、諦めてくれないかな?」
「おいおい何勘違いしてるんだ? 俺は眷属がいなくたって戦えんだよ!」
虫の外骨格のような鎧から無数の刃物が飛び出し、全身凶器状態と化したバドンが踏み込んでくる。
神はその攻撃を避けようとするも、バドンの刃が鎧を貫通する程に鋭利であったためか腕に傷を負ってしまう。
「あーあ、当たっちまったなぁ」
「これは……毒か?」
傷を受けた部分を中心に痣のようなものが広がっていく。
それと同時にバドンはいやらしい笑みを浮かべながら神の方へと歩いていく。
「俺の刃にも毒があんだよ。それも眷属の虫たちよりもっと強力なのがな」
「なるほど。ならこうするしかないか」
神はそう言うとゆっくり腕の部分の鎧を外し、腕を露出させる。
徐々に痣は広がっており、解毒しなければそう長くはもたないだろう。
しかし神においては、解毒という選択肢は必要が無かった。
「ふんっ!」
「なっなにやってんだお前!?」
神は上腕から自らの腕を引きちぎったのだ。
出血量は凄まじく、常人であれば数分と意識を保っていられないだろう。
だが神は違う。
既に傷口は塞がり始めていた。
それだけでは無い。
腕が生えてきている。
神は体を再生しているのだ。
「あーあーあーなんだよそれ! 反則だろそんなの!」
「これが神の力だが?」
改めて神の力が常軌を逸していることがわかる。
魔王である我の魔力保有量と回復能力でも、欠損した部位を再生させるのには数か月かかると言うのに。
「なら毒じゃなくて直接お前を殺すしかねえか!」
再度大きく踏み込んだバドン。
しかしその対象は神では無く、その後ろにいた我だった。
「神よりも倒しやすいヤツから狙うってのも作戦だよな!」
「甘いわ!」
刃を避け、腕から高出力レーザーカッターを放ちカウンターを食らわせる。
致命傷を与えることは叶わなかったが、鎧に傷を付けることは出来た。
この武器は天界の者にも効くということであり、それがわかっただけでも大きな収穫だ。
「おうおう怖いなお前も。その攻撃、地上の力じゃねえな?」
バドンは一目でこの攻撃が神の使いの落とす宝石を利用していることを察したようだ。
それは逆に言えば、地上だけの技術では天界には遠く及ばないことの証明なのかもしれない。
「なら、俺の本当の力を解放する時が来たのかもな。見るがいい、バドンの真の能力を!」
「あ、それはやめた方が良い!」
「もう遅い! せいぜい後悔するんだな!」
バドンの周りに魔力が集まっていき、姿を変えていく。
腕が一対背中から生え、触覚と大きな顎が顔から生える。脚は大きく肥大し、逆関節と化す。
その姿は異形の虫男といった感じか。
「これが俺の本当の姿! この状態なら、身体能力も数十倍に跳ね上がるんだぜ!」
バドンは高笑いしながらそう叫ぶ。
先ほどの攻撃速度であればギリギリ対処出来たが、それ以上の身体能力となってくると流石に厳しいものが有る。
早速我は戦力外通告かもしれない。
「食らいやがれ! ……あ? 体が、動かねえ……」
攻撃を繰り出そうとしたバドンだが、突如動きを停止させる。
「なんだ……これは……?」
「気づいてないんだね。君のその能力、眷属と似た身体構造になるんだよ。だから低温に弱い」
「な……なんだと?」
「だからやめた方が良いって言ったのに。というか君知らなかったのか? 自分の能力なのに?」
「ふざけ……」
とうとう口も動かなくなったのかそこで言葉は途絶えた。
再度動き出すと面倒なので、地に落ちている虫たちも纏めて焼却魔法で処理しておいた。
なんともまあ情けない最後である。
「……バドンは知能が低かった。まさかそれがこんな最期を生むなんてね」
「自分の弱点にも気づかない程に……か。 へ……へっくち! なんか寒くね?」
「そう言われると……」
気付けば先ほどよりもさらに気温が下がっているようだ。
というかアリサのくしゃみが可愛すぎてそれどころでは無い。
一旦心を落ち着けて、いったいどうなっているのかとエレナの方を確認する。
そこには倒れているエレナと、暴走した魔法陣があった。
エレナの発動した魔法は術者の手を離れ、ひたすらに温度を下げ続ける暴走状態となってしまっていたのだ。
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