第42話 地下の番人
薄暗い地下通路を進むと、羽虫の飛ぶような音が聞こえてきた。
「皆止まってくれ。奥に何かいるようだ」
先頭を歩く神の制止により、全員一旦その歩みを止めた。
物音を立てないように壁から顔を出し確認する。
するとそこには鳥や虫などの無数の羽を持ち、六つの目と三つの口を備えた男が立っていた。
「あいつは……アズか」
「知り合いか?」
「この塔の料理部門のトップだ。たまに飯を食いに行く仲ではある」
神はアズと言うあの男に気付かれないように小声で説明をした。
あの男の名はアズ。
今は新生魔王城となっているこの塔の食料部門トップであり、同時にこの塔の食堂で出されるメニューの開発も行っているという。
天界に食堂とかあるのかという疑問はこの際置いておく。
アズが持つ三つの口はそれぞれ甘味、塩味、酸味を好む舌となっていてこれにより豊富なパターンのメニューを開発出来ると評判らしい。
また、料理後に出る生ごみを一度魔力に分解して、再度食料へと変換させる能力を持っている。
本来は植物が生えていないという天界において、アズの高効率な食料再生産能力は高く評価されているようだ。
「アイツ、ディアウス側に寝返りやがったか」
「たまに飯を食う仲なら離せばわかる相手では無いのか?」
「一応ダメ元で会話を試みてみようか」
神は一人アズの元に向かって行く。
アズはそれに気付いたのか神の方へと歩き始めた。
「やあ」
「アンタは……何故このようなところに」
「まあ色々とあるんだよ」
神とアズは何やら話し込んでいる。初手戦闘にならなかったということは良い具合に進んでいると判断していいのだろうか。
「なるほどね。ディアウスに逆らったら殺されるから仕方なく……か」
「ああ。だけどアンタが来たということは、あの魔王を倒してくれるのでしょう?」
「もちろんそのために来た。僕たちに任せてくれ。皆、アズは大丈夫だ! こっちに来ても良いぞ!」
神がこちらを向き、手を振りながら大丈夫である旨を伝える。
しかしその瞬間、アズは隠していたのであろう出刃包丁を神へと突き刺したのだ。
貫通した刃からは血が滴り落ちる。
「隙だらけですねアンタは。神としての余裕がそうするのでしょうか?」
「アズ……?」
「私の労働環境は最悪です。何ですか勤務時間20時間って! これではいくら給料が多くても使うことも出来ない! せっかく塔勤務になれてもこれでは意味がありませんよ! ……だからディアウス様と共にこんなふざけた組織はぶち壊すことにしたんですよ。アンタにはわからないでしょうね! 神として君臨するだけのアンタには!」
感情を露わにして思いの丈を叫び続けるアズ。
それを神は申し訳なさそうな顔をして聞き続ける。
「そうか。末端はそんなことになっていたのか……。こればかりは僕の監督不行き届きでしか無い。申し訳ない」
「何?」
「労働時間がそんなことになっているとは知らなかった。定期的に上がってくる情報にも、残業時間は記されていなかったんだ」
「だから、何だと言うのですか。それで許してほしいと? ……いえ、それよりも……何故心臓を貫抜かれて、これだけ喋れるのです?」
貫通している包丁からは絶えず血がしたたり落ち続けているため、傷が塞がったわけでは無い。
流れ出る血液の量からも致命傷であることは間違いないはずだ。
それでも神はピンピンしていた。
「忘れたのか? 僕は神なんだよ。この程度で死ぬはずが無い」
神は胸から突き出している包丁を掴み、引っ張る。
持ち手を握っていたアズはその力強さに思わず手を離してしまい、包丁は神の体を貫通し胸側から取り出された。
「な、なんですかそれ……反則でしょうそんなの」
「神に対する反逆は重罪。しかし今は緊急事態であり時間もあまり多くは残されていない。そして労働環境の問題は僕の責任だ。よってアズ、君の罪はこの際不問としておく」
「ニュギっ」
神はアズに手刀を入れ気絶させた。
「アズの力では、仮にともに戦うとしても死ぬ可能性が高い。ここで眠っていてくれ」
「これで良かったのか?」
「良いんだ。アズだって本気で俺を殺そうとしたわけじゃ無いはずだ。よし、時間が惜しい。先へ進もう」
奥にある扉を目指し再び歩みを進めようとした時、またもや羽音が聞こえた。
その羽音は徐々に近づいてくる。その時突然、神は複数の出血を起こした。
「皆気を付けろ! 狙われている!」
神のその言葉を合図に、我らは臨戦態勢をとる。
それと同時に、神の前に何者かが姿を現した。
「おいおい、このまま進む気かよ」
「お前は……バドンだな」
バドンと呼ばれた男は全身を虫の外骨格のような鎧で覆い、羽を震わせている。
先ほどまで聞こえていた羽の音はアズのものでは無く、この男のものであったのだろう。
「お前らはここで終わる。上にはあがらせねえぜ」
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