第40話 役者はそろった

 国王は我の親である。

 そして人族の王であり、元勇者である。

 

 いくら何でも情報を盛りすぎでは無いか?


「あの時言っていれば良かったな」


「その通りであるぞ! その時から知っておればもっと色々と出来たものを……」


「しかし元勇者と知った状態で休戦協定を結べば、より激しく反乱が起こると考えたのだ」


 そう言われてしまうと反論できない。

 ただでさえ人族との協力が許せないとミアのような反逆者が現れたと言うのに、人族のトップが元勇者となればさらに大事になっていた可能性は否定出来ない。


「感傷に浸るのは良いが、ディアウスにここを知られた以上もう安全では無い。ひとまず離れた方が良さそうだ」


「わらわもそう思うぞ。ここの結界は基本的に水しか防げんからの」


 そうだ。今は冷静にならねばならない。

 天界からの刺客が襲ってくる以上、結界が効力を持たずそれでいて逃げ場のないここよりも魔族領の中の方が安全だ。


 国王とのことは一度戻ってから考えよう。



「ということで我が元勇者だ」


「な、なんだと!?」


 当然のごとく幹部たちは驚きを隠せなかった。

 そりゃそうだ。我でさえそうだったのだから。


「これで勇者3人に海神、そして魔王と神がここに揃った。これなら天界を取り戻せる」


「準備は整ったと言うことだな」


「装備面でも大方問題はありません。追加された国王の分の装備は追加で作らねばなりませんが、それでも明日には完成させて見せます」


「それは何よりだ。……徹夜して作るのか」


「大丈夫です。そうそう変なことはしませんから」


「いや、してるだのよ。もう既に前科がありまくっているのだよ」


 追加分の装備は明日までに仕上げると言った。しかしライザに徹夜をさせると碌なことにならないと言うのは何度も経験済みだ。

 ただもう時間もあまり無いため、今回は目を瞑ることにするしかないか。


「決戦の時は明日。皆それまでに最後の準備を整えておくのだぞ」


「それじゃあ魔王様♡ 私と一緒に部屋に行きましょう?」


 そう言いながらアリスが組み付いてくる。

 いつもやたらくっついて来るが、それよりも遥かに接触面積が多い。

 部屋に行ったら最後、今日は出てこられないかもしれない。

 そう考えてしまい思わず距離を取る。

 何より盗撮の件も片付いていないのだ。


「いやだぁ! これが最後になるかもしれないのに!」


「縁起でもないことを言うな!」


 確かにこの戦い、五体満足で帰って来られる保証が無いのはわかっている。

 しかしだからと言って部下と既成事実を作るつもりは無いぞ!?


「悪いがディアベルは私のもんだ」


 肩を掴まれそのまま引き寄せられる。

 横を見ればアリサの横顔。

 

「そ、そうだな、我はアリサのものだ」


「魔王様まで! でも私まだ諦めていないから!」


 負け惜しみのようなセリフをまき散らしながらアリスは走って行ってしまった。

 仕方ない。盗撮の件の処遇は帰って来てからにするか。何が何でも無事に戻ってこなければな。


「それにしてもさっきアリスにくっつかれた時、特に拒絶しなかったのはどういうことかな」


「え、それはいつものことであるからして……」


「私と言う者がいながら他の女に現を抜かす悪い魔王は、しっかり教育しなきゃな……」


 頬に手を添えられ無理やりに顔を向けられる。

 目と鼻の先にはアリサの顔。

 も少し近づけば色々と接触してしまいそうだ。


「あら、私も同席しましょうか?」


「エレナか……」


 アリサに後ろから抱き着いたのは一番新しい勇者であるエレナ。

 彼女のことをあまり良く思っていないのかアリサの表情は途端に曇る。


「お前と密室とか恐怖心しか無いぜ」


「それは人聞きの悪いことを。オレは決して妙なことはしませんよ」


「前に魔力を弄ってその……いやいい、もうこの話は終わりだ」


 アリサはこの場から立ち去る。

 だがエレナはこの場に残り、そのまま我の肩を掴みその手を光らせた。

 この光には見覚えがある。以前大変なことになりかけたあの時の……。


「ん……」


「あら、あまり効果が無い?」


「それはそうじゃろうて。わらわがしっかりと揉みほぐしたからの」


「それではオレが治す必要もありませんね。残念です」


 海神とエレナの会話から察するに、エレナは魔力操作によって我の体を整えようとしたのだろう。

 それならばそうと言って欲しいものだが。


「仕方がありません。それなら他の方達に回復魔法をかけてきましょうかね」


 作戦参加予定である神と国王にも回復魔法をかけるエレナ。

 特に国王は全身が大惨事であったのか、とてつもない声を上げながら身悶える。


「はぁ……はぁ……これだけ反応してくれる方は久しぶりです……! 気分が湧いてきましたよ……!!」


 あの時以上にヤバイ表情をしているエレナ。

 金輪際、体が悪い時には彼女に近づかないようにしようと決めたのだった。

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