第39話 助っ人は助かるが複雑な関係は困る
「なぜ貴様がここにいる」
「そう思うのも無理はない」
この城に近づくにはあの迎撃設備による攻撃をどうにかしなければならない。
当然普通の人間にどうにかなるものでは無いはずだ。
「これを見れば信じてもらえるか」
国王は杖を取り出す。
先端に青い宝玉の埋め込まれているいたって普通の魔法の杖。
だがそれを見て神と海神は何かを理解したようだ。
「なるほどそういうことか」
「それならば戦力としては期待出来そうじゃな」
「どういうことだ? 勿体ぶらずに説明してくれよ」
「彼は先代勇者だよ。あの杖に使われている宝玉……あれは神殺しの剣などと同じ宝石で出来ている」
「なんだと!?」
国王が先代勇者……だと?
「それは僕たちが授けた武器に他ならない。そしてこの手帳によると……」
手帳を取り出しページをめくり続ける神。
この世界の過去から今にかけての全てが書かれていると考えれば、探し出すのが難しいのも納得ではあるか。
「あった。その杖を授けた勇者は壁のギフトを持っていたね。それならあの迎撃設備でも大丈夫なはずだ」
「その通りでございます。我は神よりギフトと武器を賜ったかつて勇者だった者。今、その力を呼び覚ます時が来たのです」
理解が追いつかない。
ただでさえ先代魔王が国王と関係を持っていただけでも相当なことなのに、その国王が元勇者となると情報量が多すぎる。
「でも国王様はもうかなりの年だろ? 戦えるのか?」
「心配はいらん。先の神スライムとの戦いよって勘を取り戻しつつある。現役の頃と比べると体力は落ちたが、それでも技術の鍛錬はかかしておらん」
「それならなんとかなるかもしれない。僕、魔王、勇者3人、そして海神。これだけの戦力があれば天界を取り戻せるはずだ」
「そうはいかないんだよなぁ」
「何者だ!」
廊下から声が聞こえたと思った瞬間、我らに向けて斬撃が飛んでくる。
しかしその攻撃は国王の張った魔力壁によってかき消される。
「ちっ……不意打ちすりゃあ勝てると思ったけどそんな簡単でもねえか」
「お前は……サキか」
「お、閉め出された哀れな神がいるじゃねえか。残念だけど天界にはもうお前の居場所はねえよ。ディアウス様に反抗した者は容赦なく消されちまったからなぁ」
「なんだと?」
サキと呼ばれた者は廊下からその姿を現した。
人間のような身体構造をしているもののそこかしこにヒレや水かきがあり、半魚人程では無いが水生生物の要素を多く持っている風貌だ。
「貴様、どうやって入って来たんじゃ」
「あんな遅い攻撃、避けるのが楽過ぎてつまらなかったぜ」
「なるほど、ただ者では無いと言うことじゃの」
あの攻撃を泳いで避けたということか。
見てからでは反応出来なかったあの攻撃を……こやつは楽過ぎると言った。
桁が違う。
天界の幹部の力を甘く見ていたのかもしれない。神の使いとは大違いの実力だ。
「では我が衰えていないことを、ここで証明して見せよう」
「国王?」
国王は杖を構え前へ出る。
その後ろ姿からは、アリサやエレナから感じたような力ある者としての覚悟を感じた。
「おいおいこんな老いぼれに何が出来るって?」
「その減らず口を今すぐに止めてやると言っているのだ」
「調子に乗りやがって……後悔してももうおせえからな!」
サキは鋭利な爪で国王の喉笛を掻っ切ろうと肉薄する。
が、あと少しの所で動きが止まる。
「なんだぁ今のは……まあいい」
今度は蹴りを放つが、またしてもそれは国王に当たる直前で停止した。
まるでサキと国王との間に何かがあるかのようだ。
「どうなってやがる!!」
「我の壁の前に、其方の攻撃は意味を為さん」
「ふ、ふざけるなよ!!」
何度も切りかかるサキであったが、一度もその攻撃は国王に命中することは無かった。
「そろそろ終わらせよう」
国王は魔法陣を展開し、大型の爆発魔法の詠唱を始める。
「バカが! そんな魔法ここで使えばただではすまねえぜ!!」
サキの言う通り、ここで大規模な爆発を起こせば結界は破れここにいる者はサキを除き深海の藻屑となってしまうだろう。
だがそれでも国王は詠唱を止めることは無かった。
「お、おい国王様? 私たちもろともヤったりしないよな?」
「心配するでない。あの者のギフトがあれば問題はなかろう」
詠唱が終了し魔法が発動する。
サキは影響範囲から逃げようとするが、何かにぶつかりそれ以上進むことは出来なかった。
「てめえ何をしやがった!?」
「壁で囲み爆発を抑え込んだのだ。さすれば外への被害は出ないからの」
この魔法は本来広範囲に影響を及ぼすものだ。
しかし今目の前では、爆発魔法による光は小さな空間内に抑え込まれ僅かな光だけが外へと漏れ出している。国王の壁のギフトによって魔法自体が抑え込まれているのだろう。
当然小さい範囲に抑え込まれればそれだけ局所的に威力が上がるため、サキはその熱と衝撃に耐えることは出来ない。
すべてが終わった時、そこには灰だけが残っていた。
「国王様、こんなに強かったのか」
「……元勇者か」
国王は我の親であり人族の王であり元勇者ということになる。
いったい我とはどういう関係なのだ……。
今の我には頭を抱えることしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます