第22話 触るなよ!絶対に触るなよ!

「触るなよ……絶対に触るなよ……!」


「わかってるって」


 ヤツらの残した置き土産によって、我とアリサは常に行動を共にすることになってしまった。

 最初はなんとかなるだろうと楽観視していたが、尿意を催した時にこれヤバいのではと本気で思い始めたのだ。


 実際に用を足す際には、義手に仕組まれた音響魔術が役に立った。これによって互いに音を聞かれることが無くなる。

 まさかこの謎機能が役目を果たす時が来ようとは……。


 我らはこの権能を解消するために色々な方法をさぐった。数多の呪いの解呪方法を試したり、アリサの手と我の肩の間にスライム状の物体を入れて滑りを良くしたり。しかしその全てが意味を為さなかった。

 きっとこのせかいに存在するものと神の使いの権能では根本の部分が違うのであろう。


「なあディアベル」


「なんだ?」


「触って良い?」


「良いわけないであろう!?」


 我が様々なことを思考し検証している中、アリサは本当に楽観的だった。

 いや我も最初は楽観視していたのだが。


 アリサは隙あらば我に触れようとする。一度触れたら離れなくなると言うのがわかっていないのか?


「色々試してみて駄目だったんだろ? もう諦めようぜ」


「そういう訳にはいかないだろう」


 我がアリサに呆れていた時、何かに躓いた。


「うおっ!?」


「ちょっ!」


 アリサと我は盛大に転んだ。そして、その拍子にアリサのもう片方の手が我にくっついてしまったのだ。

 向かい合う形で離れなくなってしまった我とアリサ。目の前に互いの顔があるため自然と目が合ってしまう。


「その、すまんなアリサよ……」


「あ、ああ……」


 気まずい空気感のまま我とアリサは最後の手段として彼の元に向かった。



「イータよ、元気にしておるか」


「魔王様、と……え? なにその状況はオレを殺そうとしてるのか?」


 最後の手段。それはイータに神の使いの権能について聞くことだ。


 部屋に入った瞬間、目の前の肉塊は我を見るなり興奮した様子でまくし立ててきた。 


「イオタとカッパというヤツの権能を受けてしまってな。互いに触れたら最後離れられなくなってしまったのだ」


「ああ、あの二人……」


「やはり知っておるのか?」


 やはりイータはヤツらについて知っていた。彼が知らなかったら打つ手なしであったため、ひとまず一安心である。


「カッパのヤツはとにかくイオタを溺愛していて、オレたち神の使いであってもイオタについて悪く言うと容赦なく殺されかけたんだぞ」


「そうなのか。確かにアイツの最後は狂気的であったな……」


「で、この権能については何か知っているのか?」


「そうだな。イオタとカッパは『引き合い』の権能を持っているんだぞ。あの二人を倒したってことは片方はもう分かっているってことで説明を省くけど、もう片方の能力は触れたら離れられなくなるという能力だぞ」


 そのままであった。効果がわかっても対処方法がわからないのでは意味が無い。

 もう少し何か情報が欲しいところだな。


「そういや、なんでこの能力があるのにアイツらは使ってこなかったんだろうな」


「それは、その能力は一定時間経たないと発動しないからだぞ。戦闘中に使っても発動するころには戦闘が終わっているってことになるんだぞ」


「……不便な能力だな」


 確かに。これほどの能力、戦闘中に使えば良いでは無いかと思っていたがそんな理由があったとは。


「ところでイータよ、解除方法などは知らないか?」


「無いぞ。発動後一日したら自然に消滅するからそれまで待つしかないぞ」


「……なんだと?」


 一日間ずっとこうして向き合っていないといけないのか?


「なるほど。一日経ったら消えるんだな。なら心配することもないか」


「少しは心配しないか!? このままでは風呂も一緒に入ることに」


「ふ、風呂をい、一緒に!?」


 イータはまたも興奮した様子で謎の液体を勢いよく吹き出す。


「麗しい魔王様とアリサ様が一糸まとわぬ姿で……」


「な!? ちょっ想像すんな!!」


「そうであるぞ! そんな……」


 我は想像してしまった。こんなに近い距離でアリサと裸同士の付き合い……何も起こらないはずも無く……。


「な、ディアベルまで想像しただろ今!」


「け、決してそのような想像しておらぬわ!」


「ああ、尊い……」


 溶けているイータをよそに、我とアリサは無意味な口論を続けた。そんなことをしていても何も解決しないと言うのに。



 風呂に入る。それだけのことがとてつもなく難易度の高いイベントになってしまった。

 アリサは服を能力で消すことが出来るが、我は仕方が無いので斬り落として脱ぐことにした。


「アリサよ……こちらを見るでないぞ」


「見るなって言っても、向き合っているんだが……」


 一緒に風呂に入るどころか、常に触れ合っているという感覚が余計に心臓の鼓動を激しくさせる。風呂の熱さも相まって体温が沸騰しそうだ。


「なあ、私両手ふさがってるから……洗ってくれないか?」


「わ、わかった……」


 アリサは両手を我に触れさせてしまった。そのため今自由に動けるのは我だけなのだ。

 我は極力アリサを見ないように体を洗い始める。肌に触れないようにしっかりとスポンジを持ち、手の届く範囲を洗う。無理をして触れてしまっては一巻の終わりである。


「ん……」


「妙な声を出さないでくれるか……」


 アリサの妙に色気のある声が耳に入るたびに、我の中の何かが湧き上がってしまう。

 なんどか理性を失いかけたが、慎重にアリサと我自身の体を洗い終えなんとか風呂を終えることができた。

 アリサはともかく我は袖を通さないと服を着ることが出来ないため、大きめのタオルを巻くだけになってしまっている。





 当然一緒のベッドで寝ることになったのだが、とにかく落ち着かなかった。

 妙なところに触れてしまえば離れることが出来ないという緊張感。


 こんな時に……キ、キスなどしてしまったら……朝までずっと離れることが出来なくなってしまう……。


「なあディアベル、キスしても良いか?」


「ふぇっ!?」


 そう考えていた時にアリサからも同じことを言われてしまい思わず変な声が出てしまう。


「ふふっ冗談だ」


「おのれアリサ……」


 こうして我とアリサの大変な一日は終わった。


 そして翌日。目覚めたときにはアリサに抱き着かれており、我は全てを諦めた。

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