第21話 権能の恐ろしさ

「ボクはイオタ。魔王を殺しに来た神の使いだよ」


「私はカッパ。同じく魔王を殺しに来た神の使いでございます」


 今回の神の使いは二体同時に現れた。

 砕けた口調の方は澄み切った空のように青い鉱石で構成された人形。もう片方の丁寧な口調の方は夕日のように赤い鉱石で構成された人形だ。


「ボクたち二人が揃えば」


「私たち二人が揃えば」


「「負けることなどありえない」」

 

「へっっ私もディアベルと一緒なら絶ッッ体に負けねえからな!」


「何を張り合っておるのだアリサよ」


 アリサは得意げな表情でヤツらに対抗した。しかし、我は戦力としては期待出来ないだろう。となると、アリサはもしや我のことを想って……!


「へー、ボクに勝てるの?」


「私に勝てるのですか?」


「簡単だぜ!」


 アリサはイオタに向かってとびかかる。相も変わらず神殺しの剣は抜けないため、鞘でぶん殴った。イオタはそのまま吹き飛んでいくが、傷などはついていないようだった。やはりヤツらは強くなっている。アリサの一撃を受けて一切の傷が付かないのは初めてのことなのだ。


「その程度なんだ。所詮は人の子だね」


「んだと~?」


「煽るのはやめなさいイオタよ。追い詰められた者は何をするかわかりません。私たちの勝ちを敢えて揺るがすことはするものではありませんよ」


 自由奔放なイオタを窘めるカッパ。その姿はまるで兄弟の様であった。

 いや、そもそも神の使い自体全員兄弟のようなものなのか?


「アリサも挑発には乗るな。何が起こるかわからんからな」


「わかったよ」


「それでは次はこちらから行きましょう」


 カッパのその言葉を皮切りに、イオタとカッパは見事な連携で攻撃を繰り出す。だが先日のシータと違い圧倒的な速さがあるわけでも、高い攻撃力があるわけでも無かった。

 それでも決して弱いわけでは無い。魔王軍の幹部程度であれば容易に殺せてしまうほどの実力はあるだろう。だから彼らは置いてきた。ハッキリ言ってこれからの戦いに付いてこれそうもない。


 イオタは光の矢を大量に放ち、範囲攻撃を行ってくる。一方カッパは直線的な光の矢を放ち一点狙いを行ってくる。どちらかにだけ注意していたら容赦なくハチの巣にされたしまうだろう。


「ちっ攻撃の隙がねえな」


「ああ。特にイオタの範囲攻撃が厄介だ」


 我とアリサは共に近接戦闘主体であるためとにかくイオタが厄介でしょうがない。

 そこで、協力してまずイオタを倒すことにした。


 我の魔導義手に組み込まれている魔導チャフを使い、イオタとカッパの攻撃からアリサを守る。イオタのように数の多い攻撃の場合はチャフを使用しても全てを防ぐことは出来ない。その点でもまずはイオタから倒さなければならないのだ。


「まだかアリサ!」


「駄目だ、どんだけ攻撃しても傷一つ付かねえ!」


 普段ならもう片が付いているほどの攻撃を繰り出したアリサだが、イオタには一つも傷を与えることが出来なかった。これは流石におかしい。確かにイオタもカッパもかなりの実力を持っている。だがそれでもアリサの攻撃が一切効かないほどの能力は無いはず……。


 我が思考を巡らせていたとき、チャフによって弾道が反れたイオタの攻撃がカッパに命中した。そしてその瞬間イオタにも傷が付いたのだ。


「ご、ごめんカッパ!!」


「いいのですよイオタ、この程度すぐに再生しますから。それよりイオタは大丈夫ですか」


「うん、大丈夫だよ」


 気付いた時にはイオタは再生し終えていた。この再生能力も地味に厄介である。再生される前に決めきらなければ何時まで経っても倒すことが出来ないのだから厄介極まりない。


 しかし、先ほどの現象はいったい何なのだろうか。

 ……もしや!?


「アリサよ、共に攻撃するぞ!」


「わかったぜ!」


 アリサと我は共に攻撃を開始する。我の能力ではそこまでの致命傷を与えることは出来ないが、我の仮説が正しければ何も倒す必要は無いのだ。

 狙いが定まらないように蛇行移動でカッパに近づいていき、レーザーカッターで斬りこむ。

 そしてそのタイミングで、アリサもイオタに一撃を入れたようだ。


 その瞬間、イオタの体は大きな音を立ててひび割れた。


「イオタ!!」


「くっ……もう気付いたんだ……。でも、まだ終わりじゃ……無い」


 イオタは消滅し、体色とは逆の夕日のように赤い宝石を落とす。

 しかし、まだ終わりじゃないというのがひっかかる。


「……さて、カッパとやら。貴様らは互いにダメージが入っていないと絶対に倒せないのだろう?」


「もうお気づきになられるとは。やはり先ほどの一撃で?」


「その通りだ。攻略法さえわかれば貴様らは倒せない相手では無い」


 やはり我の読みは合っていたようだ。仕組みさえわかってしまえばもう怖いものではない。


「しかし惜しいですね。そこまではたどり着いたのでしょうが、もう一つの方はお気づきではないようで残念です」


「もう一つ……?」


「ああ、可哀そうなイオタ……。絶命する瞬間、怖かったでしょう痛かったでしょう……ですが安心してください。私もすぐに後を追いますよ」


「まて、もう一つとは何だ!」


 カッパは我の言葉を聞くことなく自害した。そしてヤツのいたところには、体色と逆の澄んだ空のように青い宝石が落ちていた。

 

 しかしカッパの言っていたもう一つというのが気がかりで仕方がない。イオタのまだ終わりじゃないというのと何か関係が?


「さて、今回も無事に終わったな」


「……そうだな」


「どうした、何か考え事か?」


 アリサは我の肩を叩く。普段なら小気味良く叩くのだが、今回はそのまま手を離すことは無かった。

 いつまでも手を乗せたままでいるので流石におかしいと思い、アリサの方を向く。


「どうしたのだアリサよ」


「……離れねえ」


「……?」


「手が、離れねえんだよ!」


 アリサは切羽詰まった様子で手を離そうとしていたが、びくともしなかった。

 ヤツらが言っていたまだ終わりじゃないというのは、きっとこれなのだろう。


 完全に、してやられたというわけだ。

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