第23話 強大な敵
イオタとカッパの残した権能の効果も解け、しばらく経つ。
未だに次の神の使いは現れていない。
「ヤツら……しばらく現れていないが、どうしたのだろうか」
「なんだかんだで神の使いが来るのが当たり前みたいな生活になってたからな」
アリサは我の髪を撫でながらそう答えた。
あの件から我とアリサは共にいることが多くなった。アリサは今も隣で我の書類仕事を眺めている。
……二人共、距離感が壊れてしまったのかもしれない。
思っていた以上に、一日接触し続けるというのは脳への刺激が強い。
束の間の平穏を享受していた我らであったが、そのあと発生した物音と衝撃によってまたしても戦場へ赴くこととなった。
◇
結界外へとやってきた我らの前に立ちはだかるのは、巨大な肉塊の山であった。
その圧倒的なスケール感に思わず立ちすくんでしまうが、アリサは即座に神殺しの剣を構え戦闘態勢に入っている。
「私はシグマ。いや、私たちと言うべきか……」
「そいつはどういうことだ?」
「ああ愛しき仲間たちよ。ラムダ、ミュー、ニュー、彼らは喜んで私の贄となってくれた。グザイ、オミクロン、パイ、彼女たちは私の崇高なる策に否定的でした。……だから無理やり取り込んでしまった。許してほしい」
「……なんの話をしている?」
自らのことをシグマと言った神の使いはアリサの質問に答えることなく、恍惚とした表情を浮かべながら言葉を紡ぎ続けた。
「そしてロー……最後にあなたが私に一矢報いましたね。そのせいで完成が遅れてしまった」
「話が通じないタイプだぜこりゃ」
「そのようだ。だが、明らかに今までのものとスケール感が違い過ぎる。油断ならない相手であることに変わりはないだろう」
今までに現れた神の使いにこれほど大きなものはいなかった。
そして何より気になる点が、なぜまたあの肉塊の姿に戻ったのかだ。
シータ以降は皆、芸術品かのように美しい見た目をしていた。
だが今、我らの目の前にいるのは醜い肉塊だ。最初にやってきた神の使いがそのまま大きくなったと言っても良いだろう。
「まあいいさ。ただでかくなっただけなら怖いもんじゃねえ」
アリサはシグマに向かって跳びこみ、鞘で殴る。
殴られた箇所は大きく膨れ上がり、顔のようなものが浮き出てきた。
その顔はうめき声を上げながら、苦痛にゆがんだ表情を浮かべている。まるで助けを求めているようにも見えるがいったい……。
「なんか気持ち悪いな……」
「やはり今までのものとは何かが違う。最初の頃の肉塊は醜くはあったが、このようにおぞましいものでは無かったはずだ」
「おぞましい……なんて酷いことを。彼女はオミクロン。ああ、彼女は良い子だった。しかし私のことは嫌いだったようで残念だ」
「まさか……取り込んだってのは、他の神の使いを取り込んだってのか!?」
「アリサもそう思うか」
我もシグマの言葉を聞いて、薄々そのような気はしていた。
であればあれほどの巨体となっているのにも納得は出来る。
アリサと少し会話をしている内に鞘での攻撃によって出来た傷は既に回復しており、その再生能力の高さが窺えた。
恐らく数多くの神の使いを取り込んでいるため、その分能力も高くなっているのだろう。
しかしそうなるといくら攻撃を繰り返したところで、いつまで経っても倒すことが出来ない。
イオタとカッパのように明確な弱点があると言うわけでも無い純粋な再生能力の前に、我らは打つ手なしとなってしまった。
「ちっどれだけ攻撃してもすぐに回復しちまう……!」
アリサはそれでも攻撃を続ける。
だが無情にも攻撃をしたそばから元に戻っていってしまうため、有効打を与えることは叶わなかった。
「どうやら、強くなりすぎてしまったようだな……これも皆のおかげだ。やはり皆の能力を集めると言う私の策は正しかった。なのにローは暴走するからやめておけだなどと……私の崇高なる策がそのようなことになるはずがないだろうに」
「……ディアベル、今の聞いたか?」
「ああ。それにしてもヤツは色々と喋りすぎなのではないか?」
「自分の策を崇高なるとか言ってるくらいだから、承認欲求が凄いんだろう」
今までの神の使いを考えても、性格に何かしらの癖があるのはおかしくないためそこは置いておく。
重要なのは『暴走する』という部分だ。
神の使いは権能をもっていた。もしやそれが互いに干渉しあうと何か良くないことが起こるのか……?
だが我らはヤツに取り込まれたものの持っている権能を知らない。それではどうすれば暴走するのかもわからない。
結局抵抗手段が無いことに変わりはなかった。
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