第15話 療養

 狂戦士と化した反逆者ミアとの戦いにより大きなダメージを負ってしまった我は、しばらくの間療養することとなった。


「ほら、あーん」

「ぬう……恥ずかしいなこれは……」


 利き腕である右腕を失い、魔導義手が出来るまではアリサに食べさせてもらう日々。

 魔王がこのような姿をさらすなど、あってはならない……。のに、アリサとなんの躊躇いも無くイチャイチャ出来るのが嬉しくてたまらない自分がいる。


「なんなら、口移しでも良いんだぜ?」

「それは遠慮しておこう」


 食事を終え、アリサは我の体をタオルで拭き始める。


「左手は使えるから、そこまでする必要は無いのだがな……」

「けが人に極力負担はかけたくないからな」


 アリサは淡々と我の体を拭いていく。やわらかなタオルが肌に触れるのが、いつも以上に気持ちがいい。他人に拭かれているという普段は無い状況に頭が混乱しているのかもしれない。


 魔王としての治癒能力を以ってしても、魔剣による傷は中々手ごわいものであった。なんとか傷を塞ぐことは出来たが、内側のダメージは相当なものである。あまり激しく動くことは出来ないため、シャワーを浴びることすら難しい。


「我……臭ってはいないよな?」

「大丈夫、毎日しっかり拭いているからな。こうやって」

「ひゃっ!?」


 首筋をスーっとタオルで擦られ、思わず妙な声が出てしまった。


「首、弱いんだな。良いことを発見しちまった」

「……変なことはするでないぞ」


 アリサに背中を任せるのが怖くなってきた。いつどのような触れ方をされるか分かったものでは無い。


「次は着替えか。ディアベルも私みたいに、直接服を変形出来たら便利なんだけどな」

「勇者のギフトと比べられても困る。というか、せめて着替えくらいは自分で……」

「駄目だ。こんな楽しいこと、やめられるかよ」


 アリサはそう言うと徐々に我の服を脱がせ始めた。シャツを脱がされ、上半身は下着だけの状態となる。

 そのままアリサは我に服を着せずに、肩を揉み始めた。 


「こういう時くらい、甘えてくれよ」

「……」


 神スライムが現れてからはより多忙な毎日を送っていた。自分でも気づいていない疲労に、アリサは気づいていたのだろう。

 我のことを気にしてくれるのは純粋に嬉しい。だがそれでも……なぜ脱がせたまま行う……!


「そう言ってくれるのはありがたい。ありがたいが、服を着せてからでも良くは無いか?」

「やっぱりそう思うよな。ディアベル、肌すべすべで柔らかいから触り心地良いんだよ」


 アリサは先ほどよりも若干しょんぼりとした声色でそう呟きながら、服を着せようとした。


「いや、良い。気が変わった。そのままで良い」

「そうか? わかった」


 アリサの声色は楽しそうなそれに戻り、再び我の肩周りを揉み始めた。




「あっああぁぁっすごぃっ♡」

「ほら、もっといい声で鳴いてくれよ」


 アリサのマッサージ技術は凄まじく、全身が蕩けてしまって力が入らず頭も回らない。

 

「んっ♡ ……はあぁぁっ」

「とどめだ!」

「ミ゛ャッッ!?」


 腰のツボを強めに押された瞬間、我の意識は深くまで落ちていった。

 勇者の能力恐るべし……。まさか、こんなところまで最強だったとは……。

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