第14話 魔王殺しの魔剣
「うぐっ……なぜこのような傷でこれほどのダメージが……」
「この剣は魔王殺しの魔剣……いかに魔王様と言えど、特攻を受ければただでは済まないだろう?」
ミアの携えている大剣はただの剣では無かったようだ。
その昔勇者に授けられたという魔王殺しの魔剣。いつかの代の魔王もこの剣に敗れたのだと言う。
だが、だとしてもミアの能力が著しく上昇していることの説明がつかない。魔剣自体に魔王への特攻が付与されているとしても、それはあくまで剣の特性であり使い手に能力を与えることは無いはずだ。
「不思議そうだな。それもそうか……今の私はアンタの覚えているそれよりも遥かに強いだろうからな」
「ほう、たいした自信だな……。何か秘密の特訓でも……あるのか?」
痛みをこらえながらも強がる。精神でも負けてしまえば終わりだ。
「私は魔剣に魂を売った。この強さはその恩恵というわけだ」
「なに?」
「もう人族に大事な者を奪われるのはうんざりだ。人族も、人族と協力するなどとぬかす者も殺す」
聞いたことがある。手にしたものの魂を食らうことで強大な力を授けるという呪いの武器。恐らくあの魔剣もその類のものなのだろう。
であれば、我の知っているミアはもうそこにはいない。ここに立っているのは殺意と憎悪に支配された、ただ目の前の者を殺すだけの狂戦士。
「強がってはいるが、既に相当なダメージが入っているはずだ。無理をしないで首を斬らせれば、楽になれると言うのに」
「生憎と、魔王たる者そんな最後を迎える訳にはいかない……」
「強情な魔王だよアンタは」
「自分でもわかっているさ。かかってこい! 魔王に反逆したこと、後悔させてくれる!!」
我は痛む体を無理やり動かし、ミアに肉薄する。
ミアが大剣を振り下ろすよりも早く一撃を与え隙を作り出し、本命の拳を入れる。
全力を込めた一撃を食らったミアは後方に大きく吹き飛んでいった。確かな手ごたえがある。これで終わるとは思えないが、少なくともそれなりのダメージは入ったはずだ。
「痛みを感じなくなってきたな……。だが、今のような攻撃を何発も受けるのは不味いってのはわかる……。ここで終わらせてもらうぞ」
「化け物か貴様は……」
「お互い様だろう。アンタも既に相当不味い状況のはずだ。……なのになぜ戦える」
「愛する者がいるからだ」
「愛する者……か。私にも大事な人がいたような気がするんだ……もう顔も思い出せないが」
ミアは表情を変えることなくそう呟いた。
「貴様、まさか……記憶が薄れて行っているのか?」
「そうなんだろうな。もはやなぜ反逆していたのかもわからない。あるのはただただあふれ出る殺意と憎悪だけだ」
「……貴様にも抱えていることがあったのだろう。だが、我はこれまでの方針を否定するつもりは無い。人族を殺す以上、こちらも殺されるというのは当然のことなのだ」
「誰もがアンタみたいに強ければ良かったんだけどな……私は弱かったんだ」
先ほど一撃を与えた箇所から出血しながらもミアは剣を構える。こうなればもう、どちらかが倒れるまで戦いは終わらない。
「魔王様。私は間違っていたんだろうか」
「……少なくとも、貴様は貴様自信に正直であったはずだ。魔王への反逆など、所詮は魔王軍の中での話だ。貴様が反逆を起こした理由はきっと、大事な人のためなのだろう?」
「そうか……」
ミアは気持ちほほ笑んだかと思うと、大剣を構え直し地を蹴った。それに対応するように我もミアに向かって跳ぶ。ミアの懐に潜り込もうとするが、向こうの方が速く攻撃態勢に入る。そのまま大剣を振り下ろし、我の右腕を斬り落とした。
焼けるような痛みが右腕から伝わってくる。止血魔法が使えないため、早々に決着を付けなければ命が危うい。
「ぐああっぁぁあっ!! まだっ……終わっていない!!」
ミアが振り下ろした大剣を構え直す前に、左手でミアの胸部を屠る。これが決まらなければ我に未来は無い。ここで今出せる全力を左手に注ぎ込んだ。
ミアが大剣を構え直すのと、我の左手がミアの体を貫通するのはほぼ同時のことだった。
「……終わったのか」
『……繋がった!! 魔王様、ご無事ですか!?』
使い手の生命活動が停止したためか、魔力無効が無くなりアレキサンダーから通信が来た。魔法が使える用になったため、急いで止血魔法を使って右腕の出血を止める。
「ああ……。右手を持っていかれたが命に別状はない」
『腕を!? だ、大丈夫なんですか!? い、今そっちに向かいます!』
アレキサンダーが他の者に伝えたのか、他の幹部から連絡が来ることは無かった。恐らく皆ここに向かっているのだろう。
「ディアベル。無事か」
「なんだ、愛する存在がこんなにボロボロなのに、随分とあっさりしているのだな」
「勝てるとは思っていたからな。何もかも私が守るのも過保護になっちまう」
「それもそうか。私を信じてくれてありがとうな、アリサ」
我はアリサと硬く抱擁を交わした。左腕しか無いためこちらから強く抱きしめることは出来ないが、アリサがいつも以上に強く抱きしめてくれるからなんら問題は無い。それに、アリサが我を心配してくれたというのも伝わって来た。
「む、魔剣が光っている?」
ミアが握っている魔剣が光輝いている。数秒後一際強く輝いたかと思うと、血のように赤黒かった刀身が一変し、澄み渡る空のような青白い刀身へと姿を変えていた。
「これは……」
「コイツは……神殺しの剣か……?」
え、何その今ピンポイントに必要な剣は。ご都合主義にも程が無いか……?
「魂を食らい覚醒したのか……コイツがあれば、神すらも退けられるかもしれねえな」
「それは……願っても無い収穫だな」
深くは考えないようにする。どうせ考えたってわからないことだらけだ。それよりは今あるものを有効活用し、困難を乗り越える方が建設的である。
「「「魔王様!!」」」
アレキサンダー、イガラシ、アリスの三人がやって来た。皆、心配と我が無事だったことへの安堵の気持ちが入り混じった複雑な表情をしていた。
「魔王様! ご無事で何よりです!」
「通信が切れたときはどうなるかと思ったが、魔王様なら大丈夫だと信じていたぞ」
「何が……何が無事なのよ……!」
「アリス、見ての通り命に別状はないからそんな顔をするな」
「だ、だって……魔王様……」
「待ってくれ、その先を言ってはダメな気がするただの直感だが……」
絶対に、この先を言わせてはいけない気がした。我の直感スキルがそう囁いたのだ。
「そうだ、ライザとサダツグは無事か?」
「ああ。二人とも施設の防衛に向かってもらっている。反乱軍自体はまだ鎮圧出来てはいないからな」
「それなら良かった」
「魔王様こそ、腕は本当に大丈夫なのか?」
「数週間すれば治るだろう。それまでの辛抱だな」
「心配すんな。それまで私が世話してやるよ」
「それはありがたい」
後日、反乱軍はリーダーであるミアを失い徐々に崩壊し始めた。こうなれば鎮圧はそう難しいものでは無く、数日で鎮圧が完了した。
「やはり、これは神殺しの剣で間違いないでしょうね」
新勇者のエレナもこの剣が神殺しの剣であることを認めた。二人の勇者が言うのであれば、間違いは無いのであろう。我々は神への対抗策となり得るものを手に入れたのだ。
代わりに失った尊き犠牲……ミアという戦士を我は忘れないだろう。今後も人族と争う以上、ミアの様な者が現れない保証はない。その時に、我はもっとうまくやれるのだろうか。
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