第13話 真の反逆者

 魔族と人族に休戦協定が結ばれ、両陣営は共に戦うこととなった。しかし、それを良く思わない者もいる。人族に愛する者を殺された魔族。魔族に故郷を追われた人族。

 戦争を行っていたのだから両者の間にわだかまりがあるのも当然のことであった。


「魔王様の指示と言えど、人と協力することなど出来ない」


 魔族領の前線基地で一人酒を飲みながらそう呟く、褐色肌に美しい金髪が目立つ魔族の戦士がいた。

 彼女の名はミア。切り込み隊長として前線で戦い幾多もの戦果を挙げた高い能力を持つ戦士である。


 だが可愛がっていた後輩の魔術師を人族に殺されてから、彼女は少しずつおかしくなっていった。

 彼女自身、戦争の悲惨さは理解していた。それでも目の前で大事な者を殺されたことを直視することは出来なかったのだ。


「人は必ず殺す。協力など出来るはずがない……たとえ魔王様の意に反しようと、私は」


 最後まで言い終えること無く、彼女は眠ってしまった。



「ええい、反発する者がいるのは覚悟しておったがここまで多いとは予想外だぞ!」

「普段から鬱憤溜まってたんじゃないか?」


 我は魔王城の迎撃設備を直しつつ、攻め込んでくる反乱軍の対処を行っている。

 アリサの存在は隠さなければならないため、少なくとも反乱軍相手への戦力としては期待出来ない。


「よりにもよって魔術エンジニアまで向こう側につくとは……。……理由は想像出来てしまうな」


 魔王城の迎撃設備の設計や修理は、魔術エンジニアという魔術を利用した機械制作が得意な職業の者たちが担っていた。

 しかし、薄給で使い倒したのが裏目に出たのか反乱軍側についてしまった。

 しょうがないじゃん魔王軍も財政難なんだから! 幹部の一人であったメアリーが抜けたのを始めとして色々なところで人材不足なんじゃぁぁ!


『アリスさんが以前魔王様に反逆をしようとした時とは違いますね……。本気でやるのでしたらこれくらいの意気込みで臨むべきだったのでは?』

『だ、だってここまでやって魔王様に万が一のことがあったら嫌じゃない!』

『アリスさん……反逆、向いていませんね』

「ちょっと待って、え? アリス反逆企ててたの……?」


 さらっととんでもないことが呟かれていた。アリスは我へのクソデカ感情はともかくとして、能力は優秀だから信頼していたのだ。

 そんなアリスが反逆を企てただと? 

 ……もう魔王軍は終わりかもしれない。この分だとアレキサンダーやイガラシも何か抱えているのかもしれない。魔王軍の大規模改革が必要になのかもしれない。


『ま、魔王様!? 違うのよこれは! 魔王様が勇者と良い雰囲気になってるのが許せなかっただけなの!』

「うむ。ここにアリサがいるわけだが、我は聞かなかったことにしてやろう」

「別に私もどうだっていいよ。魔王様を取り戻したかったら実力で堕としてみせれば良いだけだろ。というかそもそも、そういった話をオープンの回線でやっているのはどうなんだ?」

『確かにそうだわ!』


 アリスは我に関わることになるとアホの子と化してしまう。これはどうにかしなければならないな。


『こちらイガラシ、ミアがそっちに向かった! アイツは今正気じゃない! くれぐれも気を……け……れ』

「どうしたイガラシ!? ミアが何だって!?」

『アレキサンダーです! ミアが魔王城の防壁を破壊しました! どうかお……を……けて』

「こっちもか! ……まさか!?」


 以前にも似たようなことがあった。クラーケンに魔力を無効化された時だ。魔力を使った無線が途絶えるという今の状況に酷似している。


『魔王様!? 大……夫な……』

「アリスとも通信が切れた……本格的に外部との通信を遮断してきたな」

「みたいだな。でもなんの目的があって……いくらディアベルの魔力を無効化してもたかだか一人で魔王に勝てるとは思えねえ。なあ、アンタが危なくなったらバレようがなんだろうが私はアンタを助けるからな」

「そうか。できればそうならないように努めよう」


 大丈夫だ。あの時のクラーケンは突然変異の怪物であった。しかし今回乗り込んできたというミア、彼女の力量は把握している。

 

 せっかくだからこちらから向かってやろう。そして説得が可能なら和解を、それが無理なら叩きのめす。魔王に歯向かったことを理解させてやらねばならん。


「よお魔王様。人族との仲良しごっこを始めるらしいな」


 ミアは自分の背丈を超えるほどの大剣を担ぎ、我に対して殺気を放っている。 


「共闘だよ。知ってるだろう? 外には神スライムが跋扈しているんだ。その内もっと強力な敵も出てくるかもしれない」

「だからどうしたよ。そうなっても魔族だけで対処すればいいだろ?」

「それが出来ないから人と協力する必要がある」


 ミアは変わらず殺気を放っている。いや、むしろ先ほどよりも強くなっている気がする。


「はあ、魔王軍も落ちたな」

「それは我に対する愚痴ということで良いのか?」

「それもそうだが、幹部も何もかも……私自身も」

「そうか。今からでも、反逆を取り消すつもりは無いのだな?」

「ねえよ。魔王様、アンタを殺したくてウズウズしてんだ……」


 決裂。やはり戦うしかないな。だが彼女だってバカではない。まともにやり合って我に勝てるはずが無いことは、彼女自身が何よりも理解しているはずだ。


「いくぜ」

「は、速い!?」


 ミアは以前見たときとは比べようもない程の俊敏さで我への距離を詰めてくる。

 そのまま我の懐へ潜り込むと大剣を振り払う。間一髪で致命傷は避けたがそれなりに重い一撃を貰ってしまった。


「ぐっ……!」

「遅いな、魔王様」

「ミアこそ、ずいぶんと強くなったのだな」


 いや違う、これは明らかに異常な動きだ。ただ強くなっただけではない……何か、代償を払うタイプの成長度合いだ。


「魔王を舐めるなよ」


 ひとまず虚勢を張り体制を立て直そう。 

 さて、どうやって彼女を倒そうか。我、もう既にヤバそうなのだが……?

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