第12話 休戦

 神スライムが現れてから数週間。勇者によって一時的に落ち着いてはいるが根本的な問題が解決したわけでは無い。

 このままでは支配するはずの人族領も壊滅してしまうだろう。


「そこで、我ら魔王軍は一時休戦を申し込む」

「な……なんだ貴様らは!?」

「あなた方のようなふざけた輩を国内に入れる訳にはいきません。お引き取りください」


 城門で追い返された。

 それも無理からぬこと。我の姿を人族の前で明かすことなど無かったからな。

 衛兵から見れば、訳の分からないことをぬかす女が取り巻き連れてやってきたという面倒くさい構図であっただろう。


「だがこれを見てもそう言えるかな!」

「な!? ゆ、勇者様!?」

「はい。勇者ですよ」


 切り札である新勇者エレナを出す。それからはもうすんなりと事が進み、国王との謁見まであっという間に進んだ。勇者パワーすげえ顔パスじゃん。


「そ、其方は……。うむ、悪いが兵士たちよ。席を外してもらえるか」


 我の顔を見るなり、ノカワンタ国王は部屋内から部外者を退出させた。


「忘れるはずも無い……ディアベルだな?」

「ほう。貴様が現国王……我の父親……母親……?」

「すまなかった。我も人族の王であるが故、其方に全てを話すことは出来なかったのだ」

「そうか。別に恨んでなどはいないさ。そもそも、まだ状況を飲み込めてはいないのだがな……」


 国王は懐からペンダントを取り出し、我に見せた。


「これは……!」


 そこに写されていたのは若かりし頃の国王と、同じく若かりし頃の先代魔王。そして……幼き頃の我だ。


「この写真を念写した時、まだ其方は小さかったな」


 魔王と人の王の子である我は、果たして何者なのだ……?

 これでは、魔族側からも人族側からも……。


「ところで、魔王様ってどうやって生まれたんですか? どちらかが妊娠したんですか?」

「勇者エレナよ。それについては我が話そう」


 王は我の出生について語り始めた。


「我と先代魔王が契りを交わして数か月が経った頃、無から赤ん坊が生まれた。その赤ん坊こそがディアベルだ」

「我、生成されたってコト……?」

「古代の文献に記されている内容によると、魔王が役目を失ったとき新たな魔王が世界によって生み出されるという」

「しかし、その時点ではまだ先代は存命であろう?」

「ああ。しかし、人と結ばれた魔王が本来の役目を果たせるとは到底思えないのだ。だから新たな魔王が生み出された。先代魔王は、世界から魔王ではないと認識されてしまったのだ」


 いや、それだと疑問が残る。なぜ我はアリサとイチャイチャしているというのに、次の魔王が生まれない?


「なるほどなるほど。そういうことか……なあディアベル、ちょっとこっち来い」

「何奴!?」


 突然後ろから引っ張られ、なすすべなく部屋の外へ連れ出された。


「なあ、さっきの話が正しいならよ。次の魔王が生まれないってのは……どういうことだ?」

「ひぃぃ!?」


 壁ドンとは言えない勢いで詰め寄られる。顔の横からミシミシと音がする。ヤバイ。めちゃくちゃに気が立っていらっしゃる。


「そ、それは……どういうことなんでしょうね……」

「私のことを本気で愛していないのか……?」


 愛していないといえば嘘になる。しかし、まだ勇者を利用してやろうという考えもあるのだ。

 恐らくこの部分がまだ魔王としての役目に該当しているのだろう。


「なら、私のことしか考えられなくしてやれば良いんだよな」

「あ……お手柔らかに……」


 頬をゆっくりと撫でられる。先ほどまで壁にひびを入れていたその手に撫でられているという恐怖。と同時に、好きな人に触れられている気持ち良さが入り混じる。

 我の中で何かが壊れそうになった。いやもう壊れたかもしれない。壊れても良いかもしれない。


「それじゃ、今夜を楽しみにな」

「ひゃ……ひゃぃ……」


 王の部屋に戻ると休戦の話が既に幹部によって締結されていた。優秀な部下を持って我は嬉しい。そして部下がこれだけ優秀であるにも関わらず、我は勇者にうつつを抜かしているのが申し訳なくなってくる。


「魔王ディアベルよ。神を迎え撃つために一時休戦となる。しばらくの間共に戦おうでは無いか」

「我が言うのもアレだが、良いのか? そんな簡単にことを決めてしまって」

「其方への罪滅ぼしも込めて、我々は協力させてもらおう」

「そうか。うむ、それでは共に戦おう人族の王よ」


 今ここに、魔族と人族の休戦が結ばれた。当然、両陣営の者たちには魔族と人族の禁断の関係はぼかされて伝えられた。そして、それを良く思わない者も現れることになったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る