第11話 正体

「ここを仮拠点とする!」

「まあ用意したのは勇者ですけどね」


 我が連れてこられたのは魔族領の辺境にある小屋。我が気絶していた間、新旧勇者2人は魔族領内の謎の生命体を殲滅した後、魔族領に強固な結界を張りこの小屋に幹部たちを集めたのだという。魔王城は機能停止してしまっているため、最低限必要な物資や道具もこの小屋に既に移動済みであるとのことだ。

 我らがあれほど苦戦したヤツらを相手にこれほど迅速に対処できるとは……。正直我ら魔王軍弱すぎなのではないかと思うこの頃。


「しかし結界を張ったとはいえ、外の世界にはヤツらが溢れているのであろう? 人族を襲うどころの話では無いなこれでは……」

「そもそもヤツらは何なのでしょう」


 アレキサンダーの疑問も尤もなもので、おそらくこの場にいる全員が思っていることであろう。


「それについてはオレが説明いたしましょう」


 口を開いたのは新勇者であるエレナ。というかこやついつの間に……気配をまるで感じんかったぞ。


「何か知っているのか新勇者よ」

「人族と魔族は争い合うもの。そうですね?」

「それはそうであろう。それがどうしたのだ?」


 新勇者は至極当然のことを聞いてきた。舐めておるのかのう?


「ですが魔王様。勇者であるアリサと仲良くしていますよね?」

「う、うむ……それがこの話と何の関係が」

「勇者と魔王が仲良くするなんて、本人たちがどう思おうと世界が許してくれないんですよ」

「……は? 何を言っておるのだ貴様。気でも狂ったのか?」


 世界が許さない? そんな御伽話のようなことがあってたまるか。神などなんだのと言うのは所詮空想の話であろう。本当にこの世界にそのような概念があるのだとしたら、端から人族も魔族も区別なく作れば良かったでは無いか。


「ディアベル、信じられないと思うがその通りなんだ。そもそも私たちが持っている勇者の力と言うのも神から授けられたモンなんだよ」

「初耳だが!?」

「アリサ、言っていなかったんですか?」

「いや、別に言う必要性が無かったからよ……」


 勇者の力が神に授けられたもの。であれば、あれほどまでにずば抜けた能力を持っていることも頷ける。そもそも我らとは立っている土俵が違っていたということなのだ。


「それで、その神がなんだと言うのだ?」

「神は人族と魔族が争い合うことを求めています。そのためあの生命体たちは人族の王や魔族の王、そして私たち勇者を優先的に狙うのです。ただ、知能が低いのか、あくまで優先的にというだけで生物であれば問答無用で襲い掛かってしまう欠陥品なんですけどね」

「それはつまりヤツらは神の使いだとでも言うのか?」

「そう言ったつもりですけど」


 我を襲ってきたのは端からそれが目的だったということか。おおよそ我を殺し新たな魔王を生み出させるか、もしくは我を操るなりするつもりであったのか。

 ……ゾっとする。勇者たちがいなかったら我は今頃どうなっていたのか。想像もしたくない。


「ただ、神に誤算があったとするのならそれは、オレたち勇者が想定より強くなりすぎていることでしょうね」

「だろうな。私たち勇者の前にあの生命体はあまりにも弱すぎる」

「しかし、それで収まるとは思えません。近々、神の側近……もしくは神そのものがやってくるかもしれませんね」

「それは不味いのではないか? 貴様らは確かに強いが、神には流石に敵わんのだろう?」

「ですね。まず間違いなく負けます」


 ニコっと満面の笑みで笑う新勇者。いやなぜこのタイミングで笑う。すべてを諦める的なあれか?


「ちょっと待ってくれ。お前らはなぜそんなことを知っているんだ? 俺の故郷にも神を崇める宗教はあったが、そういった話は一切聞いたことが無い」

「そ、その通りだイガラシ。勇者たちよ。なぜ貴様らはそのような世界の根幹に関わるようなことを知っておるのだ」


 あまりのも入ってくる情報が突拍子もないせいで忘れていたが、勇者がなぜそのようなことを知っているかも不明のままだ。このまま『はいそうですか』と鵜呑みにするわけにもいかない。


「そうだな。まあ詳しく説明すると長くなるが、先代の魔王とノカワンタ現国王はデキていた」

「……ん?」

「そうですね。それはもうラブラブな二人だったと聞いています」

 

 我の聞き間違いか? 先代の魔王と人族の王がデキていた……?


「何もおかしくはないだろ? 私とディアベルだってそうなんだから」

「いや、確かにそうだが……そのような話聞いたことはないぞ!?」

「実の子にも教えなかったのか……。まあ言えるわけもないよな……お父さんは人族の王だなんて」


 我の中で何かが崩れ去った気がした。先代であり父である魔王はとても優秀であり、人族領の大部分を支配したと伝わっている。

 ……ん? 先代魔王は父親だが……。


「現国王は……男か?」

「そうだが?」

「お、落ち着け我……。よく考えればあれとアリサも同性同士だ。何もおかしくは無い……」

「あら、抑え込めましたね。オレは初めてそれを聞いた時、一晩中何も考えられなくなりましたよ」

「ふぅ……落ち着いた。つまり、貴様らが事態について詳しいのは、既に経験済みだからということであるな?」

「その通りです」


 既に情報を知っていれば、これほど迅速に対応できるというのもまあわからなくは無い。今の話を理解したくは無いがな……。


「でも実は、前回は神本体は来なかったのですよ」

「ちょっと強めの側近が来ただけらしい。だから今回もそれで収まってくれると良いんだがな」

「その側近を倒したら事態は収まったのか?」

「ああ。謎の生命体の発生もピタリと止まったんだとよ。神が諦めたのかねえ」


 現状神に対する一切の対抗策が無い以上、今回も神本体が来ないことを願うばかりである。


「それでよ、以前の時も謎の生命体って呼んでたらしいからもっとわかりやすい呼び名を考えてきた」

「ほう。確かに、ヤツらとか謎の生命体とかじゃわかりづらいからな」

「名付けて『神スライム』。神が遣わせたスライムのような生命体だからな」


 良い名前だろと言わんばかりのドヤ顔を決めるアリサ。その姿はとても可愛いがネーミングセンスは正直当てには出来ないのがわかった。


「うむ。今後貴様にはネーミングは任せないことにする」

「なんでだよ!?」

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