第10話 新たなる敵その2
『アレキサンダー、魔王様との回線が途絶えた! そっちは何か聞いていないか!?』
『駄目です! 他の幹部も魔王様に回線が繋がらず、イガラシが最後の望みでした……』
『こうしてはいられない! 私は魔王城に向かうわ!』
『いけませんアリスさん! 今、幹部クラスが持ち場を離れれば前線が崩壊します!』
『そんな……魔王様、無事なのよね……?』
◇
「……我はいったい……そうだ、ヤツらは!?」
目が覚めたとき、我に纏わりついていた謎の生命体は消えていた。
「全く、世話が焼けますね」
背後から声がした。振り返るとそこには、ビキニアーマーに身を包み美しい緑のロングヘアをなびかせる一人の少女が立っていた。
その姿は過去に遠隔映像で確認した、新勇者そのものであった。
「……貴様は何者だ」
「オレですか。オレはエレナ。アリサのヤツがお前を助けてくれと煩かったからすっ飛んできました」
「アリサが……そうだ、アリサはどこにいる!?」
「安心してください。アリサは今、四天王……いや五天王? の所に向かっています。その後ここに向かうとも言っていましたよ」
それを聞き、緊張感が少し解けた。事が解決したわけでも無いのに、アリサが我を助けにやってくるというのを聞いて安心してしまう。
「それにしても、アリサが言うだけのことはありますね。実際に見ると、言葉で伝えられた以上に美しい」
「な、なんと?」
「アリサのヤツ、こんなにいい女を独り占めにしてやがるんですねぇ」
新勇者は我の髪を撫でながら独り言を呟いている。アリサにされる時と同じようにやさしく撫でられているためか、こんな状況であるにも関わらず少し気分が高ぶってしまう。
新勇者はしばらく髪を撫でていたかと思うと、いきなり我を壁際まで追い詰め壁ドンをしてきた。顔が近い。吊り橋効果というものだろうか。それとも新勇者をアリサと同一視してしまっているのか。新勇者のことがなぜか輝いて見えてしまう。
「ねえ、アリサのヤツが来るまでオレとイイこと、しませんか?」
「イイこと……それは、疚しいことではあるまいな?」
今の新勇者の表情には見覚えがあった。我を自分の女にしようとした時のアリサの表情にそっくりだ。
つまりこの新勇者は我を……。
「ねえ、いいでしょう少しくらい。アリサのヤツには内緒で気持ちよくなりましょう?」
「何事かと思えば、そのような戯言。我がそんな軽い女に見えるのか?」
「そうですか……」
新勇者は我の首に触れると、そのまま魔力を集中し始めた。
「貴様、我を殺す気か?」
「殺すなんてとんでもない。そんなことをしたら、オレがアリサに殺されてしまいますから……けど」
新勇者は一瞬、わずかにほほ笑んだ。その瞬間、我の首元に集められていた魔力が爆発した。視界は淡い黄色に染まり、刹那の後、体中に快楽が充満する。
「あ……ぁぁあぁ……?」
「あら、耐えられるんですね。流石は魔王様」
思考がまとまらない。何が起こったのかわからない。一瞬で、何もかもがどうでも良くなるほど気持ち良くなってしまった。
「それではもう一度。次はさらに効果を上げて差し上げますね」
「や、やめ……」
いまよりもさらに強力なものを受けてしまえば、我が我でいられなくなる気がする。なんとか抵抗しようとするが、先ほどの魔法のせいなのか体がうまく動かせない。
いや、仮に体を満足に動かせたとして、アリサに匹敵するであろう勇者に我が勝てるのか……?
新勇者が再び我の首に手を当てたとき、壁が破壊され見覚えのある少女が入って来た。
「ディアベル! 無事か!」
「ア……アリ……サ……」
アリサは新勇者を見ると、やれやれと言った表情でこちらへ向かってくる。
「エレナ……またアンタはそうやって」
「まあまあ、結果オーライでしょう?」
「すまんなディアベル。こいつの回復魔法、ちょっと変なんだよ」
「変とは失礼ですね」
「まあいいや。あんがとなエレナ」
アリサは新勇者にお礼を言った後、我を抱きかかえ壁に開けた穴から飛び降りた。
こうしてアリサに抱きかかえられるのはビーチでの一件以来だ。結局またも我は、間接的ではあれどアリサに助けられてしまった。
「そうだ。先ほど言っていた回復魔法とは?」
「ん? ああ、エレナの回復魔法は自身の回復魔力を流し込んで処置を行うんだ」
アリサが言うには、新勇者の使う回復魔法は対象の魔力の流れに、自身の魔力を流し込んで処置を行うらしい。多くの生物は首に太い魔力の流れがあるらしく、そこに流し込むのが一番効率が良いのだとか。
「ただ、アイツの能力に問題があってなぁ……。魔力を直接扱う能力を持っているせいで、回復時に対象の感覚を弄れちまうんだよな……」
「それは、貴様の装備の変形と同じ類のものか?」
「ああ。勇者にはこういった能力が与えられんだよ。エレナのヤツ、この能力を使って回復させながら苦痛を与えたり、逆にめちゃくちゃ気持ちよくさせたりやりたい放題なんだよ」
アリサの表情が露骨に曇る。まるで自分が実際にされたかのようだ。……いや、実際にされたのだろう。
「さっきのアンタの表情、めちゃくちゃ気持ちよくされてただろ」
「な、貴様見ておったのか」
「そりゃそうだろ。何よりも嫁の無事を重要視するのが旦那の役目なんだぜ」
アリサが我のことを大事に思ってくれているのは嬉しい。嬉しいがそうか……我が嫁なのか。そこかなり重要だと思うのだが。
「このまま仮拠点に向かう。しっかり捕まっていてくれ」
「わ、わかった」
話が流れてしまった。この話はまた今度時間があるときにゆっくり念入りにじっくりとしなければならないな。
こうして我とアリサは一旦、仮拠点へと向かうことになった。
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