第4話 新婚旅行作戦その2

『こちらイガラシ。クラーケンの回収に成功した』

「良かった。引き続き哨戒をお願いします」

「ね、言ったでしょ大丈夫だって」

「そうですね。今後はもう少し落ち着いて判断が出来る用に善処します」




「あれ……なんだあの魔物は」


 遠くに蛇のような魔物が海を泳いでいるのが見えた。だがここからではよく見えない。


「仕方がない、探知魔法を使うか……あれ? 反応が……無い?」


 半径数十キロ内の生物を探知できる探知魔法を発動するも、先ほど見えたであろう辺りにそのような反応が一切現れない。


「見間違いか?」


 きっと疲れがたまっていて見間違えたのだろうと思ったその瞬間、先ほどよりも近い位置にまたもやその蛇のような魔物は現れた。それも数匹同時に。


 この辺りにそのような群れを成す蛇型の魔物はいなかったはずだが。


「何かがおかしいな」


 立ち上がり、辺りを警戒しながら再度探知魔法を使おうとした。だが、今度は探知魔法自体が発動しなかった。

 

「これは……魔力無効!?」


 我がそれに気付いた時、その魔物は目前まで迫っていた。




『こちらイガラシ! すまん、しくじった!! さっき回収した奴は同時に脱走した小型の個体だ』

「なんですって!?」

「本当なんですかイガラシさん!」

『あぁ、奴はとっくに……魔……の近……る……』

「どうした!? 聞こえているかイガラシ!!」

『………………』

「魔力無効による通信切断ね……。そのクラーケン、私たちが思っている以上の怪物かもしれないわ」

「魔王様が危ない!!」

「ちょっとアレキサンダー!?」

「後は頼みましたよアリス!」

「ま、待ちなさいよー!!」




「くっ! 放せ!」


 蛇の魔物だと思っていたのはクラーケンの足だった。それなら数匹いたのも納得できる。


「魔王ともあろうお方が……無様なものですなぁ」

「我を魔王と知っての狼藉か……覚悟はできているのであろうな?」

「はたして、そのようなことを言える立場ですかな?」


 痛いところを突かれたな。我の魔王としての強さは高い魔力に裏付けされたものだ。魔力を無効化されてしまうと途端に弱体化してしまう。そのため魔族領全体に魔力無効を無効化する結界を張っていたのだが、先日勇者に破壊されてしまったのだ。


「勇者には感謝しないとなぁ。魔力無効さえしてしまえば、魔王も敵じゃないからなぁ」

「魔力を無効化されたところで、我が貴様ごときに負けるとでも?」

「なら、さっさと抜け出して見せろよ魔王サマ」


 こんなもの容易く抜け出せ……抜け出せない!? おかしいそんなはずは……。


「そんなはずはって顔だなぁ魔王サマ。それもそのはず。俺は突然変異によって生まれた高い能力を持ったクラーケン。今まで観測させていた数値は全部手加減していたものなんだよぉ」

「な、何!?」

「流石に魔王サマには敵わねえから大人しくしてたけどよぉ。勇者が結界を破壊した時、このチャンスしか無いって思ったんだよ」

「目的はなんだ」

「あぁ~? 目的ねぇ……。魔族領を乗っ取るってのも良いなぁ。あとは……」

「な、何を……!?」


 クラーケンは触手を使い我の体を隅々まで撫でる。


「魔王サマをおいしくいただいちまうってのも良いよなぁ」

「ふ、ふざけるのも大概に」

「ふざけてなんかいねえよ」

「ぐっ……」


 クラーケンが我の水着を剥がしたのと同時に、頭で考えるより先に咄嗟に局部を隠した。我の中にもまだ乙女は残っていた。


「おうおう魔王サマでも女としての羞恥心はあるんだなぁ」


 触手が我の手足に絡みつき、引っ張る。力で負けている我の手足はジワジワと引き離され、局部が露わになりそうだ。


「魔王サマが涙目で必死になって大事なところを隠そうとしているなんて、そそるなぁおい」

「貴様……絶対に許さん……」

「誰を許さないって? マ オ ウ サ マ?」


 力も限界に達し、抑えていた触手が我を蹂躙しようという瞬間、我を拘束していた触手は細かく切り刻まれた。


「な、なんだぁ!?」

「大丈夫か、ディアベル」


 抱きかかえられながらその声を聴いた瞬間、何か心の奥底に湧き上がるものが有った。


「お前は……勇者!?」

「なあ……お前、私の女に何してんだ……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る