鶴と一声







朝焼けがしずかに眠っているので、僕は目を覚ます事を拒否して布団の中でまた瞼を閉じた

シーツが擦れ合う音はなんだかエキゾチックでいてどこか虚しさを孕んでるような気がする

そんな生産性のない思考に勤しんでいると意識は次第にぼやけてきて、気が付けばいつの間にか夢の世界の住人になっていた

目が覚めると僕は妄想の中で王子様になっていた、ここには美しいお姫様が存在しており、僕はこの人と結婚するのだとワクワクしていた

豪華絢爛な場で誓いを立て薬指に指輪を嵌める瞬間に、その妄想は暗転し、消えた

次の瞬間には巨大な猫が家の物置部屋に二匹いて、片方は白くて毛の長い猫、もう一匹は黒くて黄金の瞳をしている

僕は怖かった、白い猫がやけに身体がぐんと長く伸びていてこわかった、何か悪い夢を見ているんじゃないかとハラハラした

世界は何度も切り替わり、漸く誰かが僕を起こしにかかる

それはあたたかな母の呼びかけでも、お姫様が微笑みかけるわけでもなく、ましてや親友などでもない、人工的で無機質なアラーム音が携帯電話からけたたましく鳴り響いていた

シーツが擦れる

僕の夢は砕ける

明らかな現実に意識が冴えた

僕はまた起き上がってのびをする

あああ、また始まっちゃったよ

溜息に絶望する

朝日を受けたシーツが、キラキラと輝いていた

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