たなばたの風鈴


あたしが夜を描いたらあなたが星を付け足した

真っ暗闇に仄かに光が灯って凡ゆることに優しい気持ちが生まれた

他人から見ればなんとも些細であり慎ましく呆気のない仕草

それでもあたしはすごく救われた


ベッドの上に二人で仰向けになって寝転んだ

星は見えない

夜空も広がらない

あるのは真っ暗闇に覆われた白いはずの天井と

あるのは調度品達が静寂にくるまれた音の少ない空間

あたしは隣のあなたを見て

あなたは隣のあたしを見ることはなかったけれど

ほんの少しだけ触れていた腕の肌が

あたたかいから満足だった


天の川が見えたとはしゃいで

あなたが今日は七夕だよって笑った

彦星と織姫に想いを馳せながら

線香花火をちりちり散らして

素麺を食べて

またあの真っ暗闇の天井が見えるベッドに寝転んだ


あたしは夜空を描いて

そこにまたあなたが光を描いてくれるのを心待ちにして

しわの寄った手のひらで懸命にクレヨンを握りしめている

小刻みに震える身体



今日は七夕だよってあなたが笑ったあの日を

素麺を食べたことを

ちりちり爆ぜた火花を見たときを

ちりんちりんと風鈴が呼び起こす


あたしの夜空には

ぽたぽた

ぽたぽた

礫みたいな涙が落ちて

光は灯らぬまま

あなたのあたたかい腕に

あなたのいた暮らしに

想いを馳せている

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