第2話 夢探偵

目的地にたどり着くと、そのビルの前に立ち止まる。


真新しい高層ビルに挟まれた、陽の当たらない寂れた5階建のビル。


そこの2階にあるらしいのだが、正直コレは入るのにも勇気が要る。


「あー、もう何なのよ!」


不安要素が多すぎて、心臓に悪い。


だが、もうここまで来たのだ。


階段をのぼり、緊張を押し殺して2階の探偵事務所の扉をノックした。


『どうぞ』


中から、電話で聞いた若い男性の声が聞こえ、私はゆっくりと扉を開いた。


「ようこそ、夢探偵事務所へ」



そこにいたのは、真っ黒なスーツと真っ赤なネクタイをつけた、20代前半の細身の男性だった。


身長は180ぐらいはありそうで、髪はサラサラで真っ黒ショートのだが、前髪は顎まで長く、左目が隠れている。


そして、一番目を引くのは、その片目の色が真っ赤である事。


「どうぞ、こちらにお掛け下さい」


男は、爽やかな笑顔でソファー席へと誘導する。


改めて辺りを見ると、古びた外観とは違い、中はとても綺麗で、少しレトロさを感じる作りになっていた。


部屋の隅にはレコードがあり、中央奥にある仕事机には、羽ペンや、オイルランプが見える。


ソファーに座ると、向かいに男が座り、少しすると、足の低い長テーブルに紅茶とクッキーが置かれた。


持って来たのは、この探偵の助手だろうか。


「ありがとうございます」


そう答えて助手を見ると、この助手も不思議な風貌をしている。


身長は150後半ぐらいだろうが、体格は真っ黒なエレクトローブを羽織っている為に判断がしづらい。


顔もフードを深々と被っている為よく見えないが、唇の赤く綺麗な形から女性である事だけは判断できた。


この空間に、そんな異質なふたり組。


私は来る場所を間違えてしまったのだろうか。


「どうぞ、飲んでください」


助手が離れて行くと、男にそう促され、恐る恐る紅茶を口に運ぶ。


すると、優しい香りと暖かさに包まれ、ふと体の緊張が微かにほぐれたのがわかった。


何だか不思議な気分だ。


「落ち着きましたか?」


「え……えぇ……この紅茶は?」


「ラベンダーですよ、ストレスや緊張をほぐして、リラックスさせる作用があるんです。

クッキーもどうぞ」


そういわれて、クッキーに手を伸ばして食べると、コレも優しい甘さとほのかにジャスミンの香りがした。


「なんだか、お花畑でお茶会をしている気分ですね」


そう答えると、男は嬉しそうに微笑んだ。


「落ち着いた様で良かったです。

では、改めて自己紹介をさせていただきますね。

僕の名前は、夢川 獏むかわ ばくといいます」


「……獏ってあの夢喰いの?」


「そうですよ、夢探偵として相応しいでしょう?」


獏という男は、そういって、楽しそうに笑った。


屈託のない笑顔。


何だかこの人と話していると、緊張している自分が馬鹿らしく思えてくる。


「では、世間話しもコレぐらいにして、早速ですが、夢についての話しをお聞かせ願えませんか?」


そういわれ、私は緊張もほぐれた事もあり、早速夢の内容と、いつ頃から見始めたのか、可能な限り詳しく説明し始めた。

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