女嫌いと、本心は…

 家に帰って、ベッドに横になるともう駄目だ。

「……ッ」

 胸をじくじくと記憶が刺してくる。

 あのとき、ああ言っておけばよかった。

 あんなに避けなきゃよかった。

 もっと話を聞いておいてやればよかった。

 もっと話したかった。

「なにやってんだよ……おれはよ……」

 いまさらな後悔がさざ波のように次から次へと心に押し寄せた。

 後悔の波は押し寄せるたびに、おれの心を沖へと引っ張っていく。おれはその感情の潮汐で心が引き裂けそうになる。

 おれは枕に思いっきり顔を押しつけた。

「…………」

 なにが“いつもどおり”だ。以前と変わらないだ。

 失ったものはもう取り戻せないことを知って、こんなにもがいてるくせに。

 なにもやる気が起きない。

 正直日課もここ二日さぼっている。こんなことは初めてだ。

 無気力だった。無気力で、自暴自棄になっていた。

 いままで必死に積みあげたものを、何の気なしに手で払いのけて崩すしてしまったような。それでも構わないような。

 苦心してせっかく築きあげた虚栄の塔は崩れて瓦礫になってしまったいた。

 もはや他人からどう思われようとかまわない。蔑まれようと、虐げられようと、避けられようと。

 そんな無気力で退廃的な気分だった。

「…………」

 このままじゃ駄目だと思いつつ、心が追いつかなかった。

 危機感に、いままでのような実感が持てなかった。

「うぅ……あぁぁ……」

 ただベッドで力なく呻き、ゴミのように丸まっていた。

 あれから、世界は灰色だった。

 世界に色は失われて、全部が白黒に見える。視覚だけじゃない、五感がすべて色を失っていた。味覚も嗅覚も聴覚も触覚も。すべての色彩が失われて、灰色の砂嵐の中を、ぬめつく空気の中、日々もがいていた。

「…………」

 一目。少し顔を見るだけでいいんだ。

 あいつが元気にしているんだとわかるだけで、おれもたぶん立ち直れそうな気がした。

「無理だよ……おれ…………」

 だけど、無理だって知ってる。

 あいつはもういないんだ。この街にはいない。

 おれはなにか言うべきことを、言うべき相手に伝えないまま、人生の重要な地点を通過した気がしていた。

 勇気が足りなかったから、意気地がなかったから。

 だからおれは一生このまま、一歩も進めないまま、ここで丸くなってるしかない。

「……?」

 ふと、いつの間にかカーテンの外が暗くなっている。同時に、カーテンの隙間から淡い明りが差してきていた。

 淡い街灯の明り。その誘蛾灯に誘われるようにおれは何気なく、カーテンを開けてみた。

 そこにいるわけなんてないと知りながら。

「…………」

 やはり公園にはだれもいなかった。

 新品につけ替えられた街灯が煌々と、ただ色のない夜の街を照らしていた。

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