第04章 乙女の修行
25 あの男に負けてはならない!
「その、だから。八尋に勝てる服がいいの!」
ハルは困っていた。だから相談することにした。レイをめぐって勃発したハル=八尋戦争。ハルの頭の中での戦況は絶望的であり、奇跡でも起きない限り逆転の芽はないと思い込んでいた。だから、強力な助っ人が必要だったのだ。
(せやかて、ワシに相談するか?)
そして、相談相手として選ばれたのはケンジだった。美香の普段着で挑んだら大敗を喫したのだし、八尋はさっき宣戦布告したばかり、レイ本人に好みを聞くのもどうかと思った結果、ハルはケンジを選んだ。
一方、ケンジも困る。女子の喜びそうなファッションセンスなど持ち合わせていないから。
「いいの、レイが喜べばなんでもいいの」
(ほんなら、裸でええんとちゃうか?)
ケンジはハルのぱつぱつになった胸を見て思った。
「うーん、せやなぁ…」
ここでケンジは思い出す。女の子はこれがしたいと聞いてきても、実際には話を聞いてほしいだけであり、適当にうんうんと受け答えしていれば満足して帰ると。
「せや、まずはレイの好きなものを考えてみようか」
そうすると、ハルは首を傾げながら一所懸命に考え始める。
「アイスキャンディー(青酸カリ風味)?」
(いきなり、関係ない話題やな…)
とは思いつつ、そのまま話を広げることにした。
「なんで、そう思うんや?」
「レイとね、半分こして食べたの。そしたら仲良くなったの!」
「へぇ、レイはええやつやな。それで、どうして仲良くなったん?」
「アイスを両側から一緒に食べてたら、舌べろが当たってそのあとはなんか頭がぼーっとなって…」
ケンジは途中まで頑張っていたけれどロジックがわからない。途中までアイスキャンディーの話題だったはずが、いつの間にベロチューする話になったのか?
「あと、舌ベロくっつけながら、体をギューッとくっつけるとなんだか安心して…」
ハルの包み隠さない感情表現。ケンジは一体なぜこんな話を聞いているのかわからなくなってきた。しかし、一つわかったことがある。そんなところまで持ち込んでるんだから、ハル=八尋戦争はほぼハルの勝ちじゃなかろうかと思っていた。
(そうか、もう勝っとる
であるならば簡単だった。本人が負けていると思っているけど、実は勝利目前である。ならば、現実を知らせてやるだけでハルは満足するはずである。ファッションなんて適当に済ませればそれで終わりである。
ケンジは、またハルと絡んで美香に飛び蹴りでもされるんじゃないかと不安になっていた。だから、この話はさっさと終わらせて、自分だけの美女探しの旅でもしようと思っていた。そんな作戦を女の子独特の脈絡のない話の中で見出した矢先だった。
「あとね、胸の先っぽ触られるとなんか気持ちいいの!」
ケンジの意識が唐突に現実世界に戻ってくる。聞き捨てならないワードをとらえたからである。その文脈だけが脳裏に刻まれケンジの心に反響した。
「今、おっぱいの話した?」
「だから…」
ハルはケンジの手を取って、人差し指をグイッと引っ張って立てさせて、自分の乳首にケンジの人差し指を埋め込ませる。
「こんな感じで…んぁ…」
ケンジは再び理解できない状況に陥る。
「こう、なんか、くすぐったくなるの…」
潮紅するハルの顔を眺めていると、ケンジはある誘惑にかられる。ハルがハル=八尋戦争に勝利している事実を隠蔽していれば、もしかしてこんなラッキースケベ事案がこれからも起こり続けるんじゃなかろうか?
「おう、ハルやん」
「ハルやん?!」
「八尋との闘いワシが全力で応援したるからな!」
ケンジは将来の伴侶よりもまず、目の前のエロスを優先することを決めたのだった。
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