26 男目線では最強の誉め言葉


「うわぁー、お洋服がいっぱい!」


 一行はひとまず新池袋を目指していたが、長距離の移動で着替えや他の装備が不足するので、旧原宿近隣に立ち寄って散策することになった。


 そして、ハルとケンジはこの日のために準備していた。




 時は数日前に戻る。


 先の書店で全員が集まり、今後の当番を決めることになった。美香が当番表を発表する。


「5人体制になりましたので、皆様念願の休暇日を作ります!」


「おー!」


 当番は主に2種類。マイクロフィルムに漫画を焼き付ける担当2人と食事収集及び調理担当の2人。そして、新たに追加されたのが休暇である。


 二人ずつでローテーションを回すとどうしても1人余るが、4人でも5人でも食事の負担が極端に増えるわけでもなく、フィルムに焼き付ける仕事も3人だと手が余る。


「だから、一日中漫画を読める日にしましょう!」


 美香念願のひと時が実現して大満足。みんなももちろん反対しなかった。




 そして、明日はハルの休暇日だった。この休暇において、ハルはやるべきことがあった。ケンジに教えてもらった作戦。その名も「エロは美に勝つ作戦」である。


「もう美香から、エロなことすんなっておそわったか?」


「言われたような…」


「禁止する理由は考えたか?」


 ハルはまた首を傾げて長らく考える、しかし…わからなかった。


「せやろな。だってエロが男の気を惹く最強の武器やからな」


「そうなの!!!」


 女子同士で「エロ」と言えば侮辱であるが、男の子から女の子へ向けて捧げられる「エロ」の言葉は純度100%混じりっけなしの誉め言葉である。


「じゃぁなんで美香はダメって言うの?」


 女の子同士がエロを抑制しなければ、エロのハイパーインフレが発生してそれはそれで世界がエロで満たされて大変なことになる。


「女同士はライバルやから、けん制しおるんよ。」


「ライバル? 美香は友達だよ?」


 こういうハルの純粋さ嫌いではないが、ケンジあえて本当のことを言った。


「美香もレイのこと狙っとるで」


「なんだって?!」


 いちいち、いいリアクションをするハル。しゃべっていると気持ちよくなる。


「ほんでな、エロにも種類があるんねん」


「うんうん」


「だから、レイの好みを探る必要があんねん」


「なるほど…」




 そして、ハルの休暇日が明日に迫る。


 食料を回収&食事の準備をして疲れた体ではあったが、レイに好かれるためにケンジから与えられたミッション実行の日である。


 夜陰に紛れ、ハルは眠るレイに近づく。そして、ちょっとつついて眠っていることを確認する。


「すやすや」


「よし!」


 そして、ハルはレイの枕もとの荷物を漁り始めた。漫画があればそれを回収して、持ち帰り、休んでいる間に全部読破する。そして、好きなヒロインを探る作戦であった。


「あった!」


 ペンライトで確認すると、肌色成分多めの表紙絵にきわどい服装の女の子。間違いなくムフフ本である。確認のためにペンライトを口にくわえて中身をぺらぺらとめくって少し読み始める。


(なんか、けっこうおもしろいかも…)


 そうして、そのまま漫画を読み始めてしまうハルであった。40分後には…


「次の巻はないかな…」


 と、さらにレイの荷物を漁り次巻を読み始める。本来の目的を完全に忘れているハル。そして、3冊を読んだあたりでハルは疲れてきて眠くなってくる。


「もう、眠い…ちょっと休もう」


 そうして、目の前で寝ているレイの寝袋を眺めるハル。


(よし、ちょっとお邪魔しよう!)


 美香の短パンを脱いでさらにシャツも脱いで、楽な格好になったハルはそのまま、レイの寝袋のジッパーを開く。


「ふえっ? ハルちゃん?」


「ちょっと、寝かせて…」


 そのまま問答無用で寝袋に侵入するハル。密着する二人の体。そして、ハルはそのまま朝までレイの寝袋に居座り続けたのであった。


 *****


 翌朝。美香は隣に眠るハルがいないことに気づく。いつも寝坊気味のハルが先に起きている。珍しいが、ハルを探すという口実で朝の男子部屋でも覗こうと思った。


「ちょっと、レイ君! 入っていい?」


 レイ君の寝起きに突撃して、おねーさんアピールでもでしてちょっとずつ飼いならしておこうと思っていた美香だった。しかし、


「あ、美香! 入っていいよ!」


 と、なぜか女の声がする。急に、不安を覚え美香は部屋に突撃することを決めた。


 そして、パンツ一枚でレイ君に襲い掛かる女を目撃するのであった。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る