23 女の子の価値って何よ!


「美香、教えてよ!」


 ハルは美香を問い詰める。


「女の子に価値がないなら、私たちはどうやって生きて行けばいいの!」


「それは、その…」


 真実を教えるために、性教育の教科書とか呼ばれているえっちな漫画もあるけれど、こんな純粋少女ににはちょっと早いんじゃないだろうか? 美香は迷った。何故かBLはオッケーだと思ったが、性教育はだめだと思ったのだ。


「うぅ、やっぱり女の子に価値ってないんだね?!」


「いや、そんなことはなくって…」


「だって、私にお○○○○ついてないじゃん!」


「いや、私たちにはついてないけども!」


 そんな聞こえるような声で、男の子のあれを叫ばないでいただきたいと思いながら、しかし一方で、ハルに真実を教えるかどうかは悩ましい美香であった。


 第一、この少女に子づくりの方法を教えたら「へぇーそうなんだ」とか言いながら、本当にレイ君と子づくりを始めそうだった。故に、方法がわからないほうがいいんじゃないかとさえ思っていた。自分の体の構造もよくわかっていないのだから、教えなかったら合体方法もわからないだろう、そういう考えが美香の中で支配的になっていった。


 だから、美香は嘘をつき通すことに決めた。


「そうなの、残念なことに女の子は価値が低いから努力しないといけないの!」


 目をまん丸にして驚くハル。


「やっぱり…!!」


「だから、おしゃれして努力しないと男の子に振り向いてもらえないの」


「おしゃれ?」


(フフ、食いついたな!)


 美香は思った。なかなか服を着ようとしないこのディストピア育ちの裸族に服を着せるいい機会である。


「男の子を振り向かせるためにはこういうかわいい服が必要なのよ!」


「そうだったのか…」


 ハルは美香の思うつぼだった。やはりこの女ただの馬鹿だなと思った。かつて、自分もディストピアから出てきたときは同じような感じだったことは棚に上げて、今はとりあえず服を着る。そうすることが友達としての義務である。


「じゃ、着てみよ?」


 そう言って美香は持ってきた自分の着替えを取り出す。赤いシャツに白いショートパンツあたりがちょうどいいだろうか。下着はさっき八尋に回収させたものを強引に着せる。


「なんか苦しい!」


「我慢しなさい。上げて寄せるほうが男の子の気を引くの!」


「うーん…」


 あんまり服を着慣れていないと最初は苦しいものである。


「なんか、胸がきつい。これ要らない!」


 どうにもブラジャーはお気に召さないらしい…。プチッとホックを外して、胸倉から手を突っ込んでブラジャーを放り投げる。確かにハルは普通より大きいけど、つけていないと歩き回ったらこすれて痛い思いをするだろう。


「それ、つけてないと痛くなるよ?」


「そうなの?」


 きょとんとするハル。そう言えば、今まで布と紐だけの服を着て歩いてきてなんともなかったのだろうか? 疑問に思った美香がハルの胸元を見る。シャツがパンパンに張って密着しており、もしかしたらこすれないかもしれないとか思ってしまった。そして、何より美香が感じたことは…


(大きい、負けた…)


 ブラもパットもないのに…。美香はちょっと傷つく。


「これならレイは喜ぶかな?」


 動くたび、ぽよんと弾む、ハルの胸。


「うん、喜ぶと思うよ」


「じゃ、見せてくる!」


 ハルはルンルン気分で隣の部屋に出る。なんだか微笑ましい光景だった。おしゃれしたらやっぱり好きな人に見てもらいたいんだなって。


(かわいいなぁ)


 と思っていたのに、しばらくして聞こえてくるのは怒鳴り声だった。


「ちょっと、レイをどうしようってのよ! この泥棒猫が!」


 修羅場である。一体何があったのか? 隣の部屋には男しかいないはずなのに何事であろうか? 美香は隣の部屋をそっと覗く。すると、そこには女装した八尋とハルが言い争っていたのだ。


 美香は申し訳ないと思いつつも、面白そうなので様子を見守ることにした。

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