22 第三のヒロインに僕はなる!
美香がハルにBLを布教していた反対側の部屋で、レイと八尋は別の話をしていた。
「どうだい、神秘的だろ?」
漫画を読み終えた僕に、八尋が爽やかな笑顔で尋ねてきたのだ。
「うん、女の子どうしって無限の可能性を感じるね!」
八尋は僕に百合のすばらしさを説いていたのだ。人類には途方もない組み合わせがある。男女だけじゃない、性別の組み合わせはなんと81通りになるらしいけど、僕は女の子どうしに神秘を感じたのだった。強いて言うなら男の登場人物って不要なんじゃないかな!
「実は、僕は予言しているんだ」
八尋は急に真剣な表情で語り始める。その真剣な表情に対して僕は思わず息をのんだ。
「いったい何を?」
「このランド内には乙女ピアがあると言われている」
乙女ピアとは美香さんがその場所へ死ぬまでには一度行きたいと語っている乙女の
「であるならば、対を成す存在もあるはずなんだ!」
八尋は急に立ち上がって「素粒子」とかいう話をはじめ、電子とか陽電子とか物質とか反物質とかチャームとかストレンジとか難しい言葉を並べて宇宙の法則を一通り語ったのちに、口を開く。
「だから、おとこピアもあるはずなんだ」
「つまり?」
「乙女ピアはバラの園。対になるそこは百合の園だよ」
僕は乙女ピアがどんな場所か知らないけれど、その対極が女の子だけの世界らしい。
かつて、ディストピランドのあった日本という国は変態的な技術を有していたと言う。特に、手のひらに乗るサイズの人工知能を搭載したフィギュアを作ったあたりから、世界を圧倒的にリードする変態性を獲得した。
「そこには、なんと美少女だけの世界があるらしいんだ」
哺乳類は遺伝子を二つ作った。一つはX染色体、もう一つはY染色体。性別を決める遺伝子を二つ使ったことにより、人類は男女の比率を確率的に半分半分とすることができるようになった。しかし、逆手に取れば、世界はどちらかだけの性別を生み出せない。したがって片方だけの性別の世界も存在しないことになる。
「だから、僕たちのご先祖様は生み出したんだ」
「なんだって…」
「僕は確かめたいんだ、この目で。そして、ディストピランドの外に出て、こんなちっぽけな世界じゃない本当の百合の園を見たいんだ」
僕は、八尋が外の世界にあこがれる理由の一片を理解した気がする。
「ところでさ、なんで女の子どうしだとこれだけ神秘的なのに子供はできないの?」
「そればっかりは神様に聞かないとわからないけれど…」
そう言って八尋はギリシャ神話の本を持ち出してくる。
「もともと神様は人間を四つの足と四つの手を持つ生物として生み出したみたいなんだ」
「これが完璧な姿なんだ…微妙じゃない?」
「そう、だけどある日、この生き物を引っ張ったら二つにちぎれちゃったらしい」
「痛そう…」
「まぁ、そこは神話だからね。それで、手が二本、足が二本の生き物に分裂して、それぞれ男と女になったって話があるよ」
「離れ離れになったらさみしくないの?」
「レイ君、鋭いね! だから、男と女は合体したがるらしい」
さすが、八尋は物知りである。
「ということは僕とハルちゃんが合体すると完璧に戻るってことだね」
「あ、うん。そうだね」
僕はどうやって合体するのかわからなかったので、八尋が手に持つ本をのぞき込んでみるが、ディストピランドの検閲による黒い塗りつぶしが入っている。
「それで、合体ってどうするの?」
八尋は、深く息を吸い、しばらく考えていた。長い沈黙が部屋を支配したが、ある時八尋は意を決したような表情をする。
「女の子は合体するものじゃない。変身するものだ」
「どういうこと?」
すると八尋は急に席を立ち、屋根裏みたいな場所のさらに奥から女の子の服を取り出してくるのだった。
「ちょっと待ってて!」
しばらくすると、出てきたのは綺麗な女の子だったのだ。僕は何が何だか理解できなかった。そもそも、手足は4本ではなく2本のままだし。
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