21 美香は純粋少女を腐らせたい


 いろいろあった。べったりとくっつくハルとレイを引きはがし、一行はひとまずキャンプ地の本屋に戻ることにした。そして、しばらく歩いているうちに美香は冷静になりつつあった。


「やっぱり、この子たちに一般常識は教える必要があると思う」


 再開していきなり人前でディープキスして、そのままおっぱじめそうな状態のレイとハルの関係は明らかに良くない。それには八尋もケンジも同意だった。ということで、レイは八尋から、ハルは美香との二人組に分かれ、別室で話をすることになる。


 そうして、美香はハルと二人きりになることに成功した。まずは女の子として最低限度必要な性教育をしなければならない。


「えっ!? 人間でも子供って作れるの!」


 この純粋な少女は興味深そうに人間の神秘の話を聞いた。例えば、花はおしべとめしべの2つの存在があり、2つが交わることで初めて新たな命の種が紡がれることを説明した。それはもう長い時間をかけて説明した。


「ふんふん、なるほど」


 かわいたスポンジは吸水力きゅうすいりょく抜群ばつぐんであった。ハルは美香の言うことをよく理解し、興味を持ってのぞみ、そしてよく学んだ。


「男の子の膨らんでるところってお花のおしべみたいな使い方するんだね」


「そうそう」


「それで、めしべに交わると子供ができるんだ!」


「そうそう」


 しっかり勉強するハル。それに対して、美香はちょっぴり罪悪感ざいあくかんさいなまれていた。


「そうか、人間はこうやって子供を作るんだね」


 なぜなら、彼女に一つだけ嘘を教えているからである。花はひとつの花におしべとめしべが両方備わっている品種もある。だから、そういうイラストだけを見せて、あたかも雌雄しゆう同体どうたいの人間が存在しているかのように説明した。


「ね、男の子どうしって神秘的でしょ?」


「うん、すごいね。やっぱり完璧だね」


 一生いっしょうせるBLのTL漫画を見ながら、純真な笑顔で答えるハル。美香はその様子に罪悪感を覚えつつも、純粋な少女をけがすような背徳的はいとくてきな喜びも同時に感じていた。


 美香には目的を共有する仲間はいる。たまにけんかもするけど一緒にいて楽しい仲間がいる。しかし、心の友はいなかった。美香は求めていた。生まれは違えど同じ沼に沈む心の友が欲しかったのだ。


 だから、今まで様々な集落に漫画を広め、交流して心の友を探していた。自由主義国へ脱出が叶えばオンラインで心の友を探すこともできるがディストピランドではそうはいかない。だから、魂の道しるべとなる漫画を手にし、回り巡り合わせに期待していた時期もあった。


 しかし、そう都合よく心の友に巡り合えるものでもなかった。


(存在しなければ作り出せばいい)


 これが、美香の行きついた結論だった。もっとも、さっき思いついたんだけどね!


(この純粋少女を腐らせたい)


 ディストピアに漂白され、何も知らずに美香色に染まる純粋少女。美香は彼女の成長が楽しみになったのである。美香はハルの後ろで「フフフ」と笑った。


「続きってあるかな?」


 鼻歌交じりに推しの良さを吸収していくハル。もうすぐ、もうすぐである。この二人の男子の奇跡の物語をしっかりと味わって、そして自分のように染まってしまえ。私と同じ沼に沈もうではないか! 生まれ変わってもまたここに戻ってくる「I’ll be Back!」


 美香はわらいながらハルを見守るのであった。二冊目もサクッと読み上げたハルは、ちょっとばかり感動の涙を流した後私に聞くのである。


「ねぇ、美香」


「なに?」


「男の子どうしってすごいね。子供もできるんだね!」


「そうだよ」


「うん。それともう一つ聞いていい?」


「なに?」


「男の子が完璧なら、女の子の価値って何?」


 これは、美香にとって盲点だった。実際なら子供が産めるのって女の子だけだから、はっきり言って無謬の存在価値があると思っていた。だから、美香にとってハルの質問はマジで盲点だったのだ。


(やっぱ、ちゃんと普通のやつを教えてからじゃないとダメだったか…)


 美香はちょっと後悔したが、反省の色は薄かった。


「ふふ、勘のいい美少女は嫌いだよ」

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