20 青春、爽快、濃厚接触


 ハルちゃんに服を着せていただけなのにケンジは美香の飛びりによって吹き飛ばされていった。


「このど変態が!」


 一方、ハルちゃんは僕に駆け寄ってくる。


「レイ!」


 再開。さわやかな思春期の物語における感動の一幕ひとまく。誰からも祝福しゅくふくされるべき時である。服も着ないまま、半裸のハルちゃんが僕に飛びつく。青春を思わせる僕たちの再開にさっきまで怒り心頭だった美香さんも思わずにっこりする。


 ハルちゃんを受け止めて、反動を殺すためにくるりと1回転。


 そして、ハルちゃんは舌を出して、僕の舌と重ね合わせる。くちゃくちゃという音と共に僕もハルちゃんも気が抜けて壁に寄りかかり、そのまま地面に転がる。


 転がった拍子にハルちゃんの胸に手を当てる。またハルちゃんは抵抗することなくそれを受け入れてくれた。どんどんとろけていくハルちゃんの瞳。もしかし、今ならハルちゃんの神秘を…。口の中がとろけそうになりながらも彼女が身に着ける布を支える唯一のひもをほどけないか、首に手を回して確認してみる。


(あれ、かたむすびになってる?)


 こういう紐はマンガにおいてはとても都合よく外せるのに、現実はどうして僕を拒むんだ? ハルちゃんの紐をほどこうとしていた間、ずっと静寂が続いていたけれど、我に返った美香さんが急に大きな声を出す。


「おい、ちょっと待てぇーい!」


 僕とハルちゃんはびっくりして振り向く。


「そんなの私聞いてない!」


 美香さんは顔を真っ赤にしながら、畳みかけるように僕たちに叫び声を浴びせる。


「青春ラブストーリー期待してたのに、誰がこんな濃厚のうこう接触せっしょく想像するかぁ!」


 その間、僕らはただただ目が点になるばかりだった。


「裏切り者め!」


「あの、僕たち何かやっちゃいましたか?」


「もう、事実上やってるよ! 見てる私が妊娠にんしんしそうよ!」


 なぜか僕たちは怒られている。やっぱり、こっちでもこういうの罪なのだろうか?


 しかし、困惑する僕とは対照的にハルちゃんは美香さんに対して果敢かかんいどむのだった。


「妊娠って子づくり?!」


「そうだよ」


「それ、どうすればできるの?」


 そういえば、僕たちはそんな秘密も追いかけていたっけな。僕よりもハルちゃんのほうがしっかり覚えていたんだね。僕は子供よりハルちゃんのことしか見えてなかったのに。


「私たちは、子づくりすれば完璧になるらしいの。ね、知ってるなら教えて」


 ハルちゃんの質問に対して急におとなしくなる美香さん。回答にきゅうして、あたりをきょろきょろ見渡す。すると運よく視界に倒れているケンジがいたのでもたたき起こすことにしたらしい。


「なんや?」


「あんたの出番よ。ほら、子供の作り方説明してやんなさい」


 しかし、ケンジはその場にしゃがみこんでしまう。さっきひとめぼれして嫁にする宣言までした女子が、なんかよくわからん男の女だったというショックを受けしばらく立ち直れそうになかった。だからちょっとやけになっていたのかもしれない。


「嬢ちゃん。ワイが直接、教えたろうか?」


 挑発的セリフと裏腹に、虚無の表情を見せるケンジ。それを見て美香は察するところがあったらしい。美香は憐れみの視線を向けつつも一撃で気絶できるように強烈なチョップを食らわせて、ケンジをもう一度静かに眠らせたのだった。

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