19 助けて! この人服を着せるんですよ


「ふう、やっと出れた!」


 髪を揺らしながら整える女の子。膨らむところは膨らんで、締まるところはしっかり締まるエロい体の女の子。そして、くるりと振り向いた時の瞳の吸引力。まさに、絶世の美女だった。


「ほ、ほんまに裸の美女おったんか…」


 ケンジはその間も右手を美少女のおっぱいに触れていた。自分の触っていたものを確認し、怒られるまでもうちょっと揉んでいたいという気持ちが働くも、こんな美少女に嫌われたくない。だから、手に馴染む柔らかい感触に決別した。あくまでも紳士としてふるまおうと決めたのだ。


「すまへんな、中に誰かおるなんて思わへんから」


「うん、大丈夫!」


 どうやら、その美女は怒っていなかった。美香の胸だったら超音速パンチを3発はお見舞いされただろうにこの美少女は何の対価も要求しなかった。


(正に女神やな!)


 それにしても、この美少女。すごい恰好である。布と紐だけの服を着ていて、正面はエプロンみたいに首で止まっているが、背中の布は面倒だったのかビラリとめくれて腰の紐だけで前後の布が留まっている。お尻の割れ目もくっきりと覗けるくらいに真っ白な背中が見えたのだ。


 ゴソゴソ。美少女は立ち上がってコンテナから出てこようとする。そして、貨車の淵をまたぐ。またぐとき、ケンジは確信した。


(はいてへん)


 直視してはいけないと思ったので顔を背けていたが、横目で絶対にはいていないことを確認した。女子の神秘の半分くらい見てしまったケンジは反省し、この子を嫁にすることを決意した。自分のものだと思ったら優しくできるはず。


「お嬢ちゃん、服はなんかええのないんかい?」


 これぞ、ケンジの紳士ムーブ。服を着せる行為こそ今困っている女子のためになるはず。


「苦しいから着たくない」


 しかし、ディストピランド特有の隔離生活のせいで、この少女の羞恥しゅうちしんは壊れているらしかった。


「いや、着なあかん!」


 ケンジは八尋を呼び、裸の美少女に目を回す八尋に命じて服を探しに行かせる。そして、さすが自分たちの庭と豪語するだけあって、八尋はすぐに服を用意して持ってくる。


 袋に入ったシャツと短パンとパンツとブラと…を手渡す。


「いらない、それ苦しいし!」


「あかんねん。それはあかんねん」


 一度嫁にすると決めた女子が俺以外のやつに裸見られるのはケンジ的にアウトだった。その証拠にむっつりの八尋は横目でちらちらこの子のはみ出す乳を見ているではないか。そういうの許せない。だから、必死に服を着せようと試みる。


「いやだ!」




 一方、レイと美香は尻尾を巻いて帰ってきているところだった。シジノードのやかたの前はやたらと警備が厳重で、普段は存在しないKeep Outと書かれた黄色と黒のテープが張り巡らされていた。


「ここを突破するのは困難ね」


 だから、予定を切り上げて八尋達に合流することにした。ハルちゃんを助けに行くにも犠牲者が出たら意味がない。やっぱり慎重しんちょうに行動すべきなのだ。


「ハルちゃん…」


 そうして、またしばしの別れとなると思っていたのだけど、八尋達のいる集積所に近づくと、


「いやーーーー! 助けて、レイ!」


 と声が聞こえてきた。


「ハルちゃん!」


 僕は駆け出す。これは間違いなくハルちゃんの声である。美香さんも走ってついてくる。今、ハルちゃんは誰かに襲われてピンチに違いない。急がないと!


 そして、向かった先にはハルちゃんとそしてケンジがいた。


「レイ助けて! この人、私が脱ごうとするのに服を着せるんですよ!」


 僕は安心した、ケンジがハルちゃんに服を着せているだけだったから。


 しかし、減速する僕と反対に、美香さんは加速した。すごい勢いで僕を追い抜いていく。下り坂も手伝ってすごい勢いで美香さんは駆けていく。


「何しとんじゃド畜生が!」


 高く飛び上がった美香さんの描く美しい放物線は、ケンジの顔面に直撃するのだった。

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