第02章 ディストピア脱出に人生を捧げよう
09 罪人の末路と特濃謎肉スープ
僕はコンテナの
最初の数時間は「ハルちゃん」と呼びかけ続けた。ハルちゃんもずっと「レイ」と呼び返してくれていたのに、やがてハルちゃんの返事もなくなる。それでも僕は呼びかけ続けた。
いつしか、
今度は
そのまま丸一日くらい経ったと思う。ただ、ひたすら感じるのは
それでも、ハルちゃんの味を思い出すと僕は少しだけ元気になれた。そして、ほんの少しだけ幸福で空腹を紛らわすけど、その後はひたすら虚無感が僕を支配するのだった。
「ハルちゃん…」
もう、僕の声は小さすぎて、ハルちゃんには届かない。このまま僕はプランクトンの
「ハルちゃん…」
(ハル…ちゃん)
「そっちもかけて、外せない」
何か液体をかけられている気がする。
「あぁ、わかった」
「手を引っ張って、持ち上げるよ。3,2,1,せーの!」
僕は、誰かに体を揺すられていた。
「衰弱してるかな。点滴しようか」
女の子? ハルちゃんとは違う声。一体誰だろう? チクリとした感触。腕に針を刺される。
「バイタル、少し回復したよ」
「よし、頑張れ。君はまだ生きてる!」
(僕はまだ生きてる?)
体が重くてまったく自由にならない。けれど、意識はあるのがわかってきた。
「ちょっと、目が動いてない?」
「あ、ほんとだ。おーい、返事できる?」
「おーい、返事できますか?」
答えなきゃ! 答えなきゃ!
「はい、幸せです…」
「ぷっ」
僕はしばらく笑われていたと思う。
「あぁ、大丈夫そう。まだ
それから、数時間くらいたったころである。
「おはよう。聞こえてる?」
「おはようございます」
何かの光が
「良かった、けっこう危ないところだったんだよ」
僕は体を起こそうとする。けれど、上手く体が動かない。
「あぁ、大丈夫?
声の主は僕の手を引いて起き上がるのを手伝ってくれる。
「謎肉スープがもうすぐできるから待っていてね」
ぐつぐつという聞いたことのない音、そして、謎肉の濃い香りが辺りに広がっている。いつもは薄くペースト状に引き伸ばされているからほんのりしか香らないのに、今日はものすごく濃い香り。僕のお腹は香りに吊られて「ぐぅ~」と鳴った。
「ははは、食欲はあるみたいだね。それならすぐ元気になるよ!」
目が慣れてこの部屋の景色がだんだん見えてくる。胸のふくらみ…たぶんこの子は女の子。隣にいるもう一人は、顔だけだとよくわからないけど、たぶん男の子だった。
「とりあえず食べなよ」
僕は女の子に差し出されたスープを
「おいしい…。おいしいよ」
「そんな、泣くほどおいしいなんて…うれしいこと言うじゃない!」
女の子にバシバシと肩を
「あ、そうそう。自己紹介しないとね。私のことは
「僕のことは
「君の名前は? ないならつけてあげようか?」
美香さんに聞かれ、僕は自分の名前を答えようとする。REY-1105と。しかし、僕はもう反革命罪でこのディストピランドを追放された身である。人民番号ははく
「僕のことはレイと呼んでください」
僕が名前を答えると、八尋と美香さんが顔を合わせる。
「君、もう名前があるんだね。もしかして
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