05 今度はハルちゃんを調べよう!


「ハルちゃん…、いいね。脱がすよ?」


 二人でマニュアルを読んだ。その結果、マニュアルから得られた情報がいくつかあった。


 まず、配布されたのは子供を作るマニュアルであること。その途中とちゅうで服を脱ぐこと、ベッドらしきものを使うこと、いろいろ終わった後に会話をすることだけであった。


 マニュアルの最初の方のページは検閲けんえつによる塗りつぶし用の黒インキがしっかり出ていなくてかすれていた。インキがかすれているページを光にかざして見ることで文字が読めたのだ。それで、このマニュアルのタイトルと、最初のページのイラストがわかったのである。


 そして、僕たちは子作りなんてどうするのか全くよくわからないけれど、とりあえず服を脱がそうと向き合うことになる。


 ハルちゃんの体に対して僕のシャツは少し大きい。それでも、胸のふくらみがあってお腹まわりが細くなってお尻にかけてまた膨らむ体つきは僕とはだいぶ違うと思う。特に、胸のふくらみ。これによってシャツがピンと貼る。それが僕は気になって仕方なかった。


 そうしてハルちゃんを眺めると、僕だけのモノがまた反応する。僕についていてハルちゃんについていないもの。ハルちゃんの綺麗きれいな瞳が僕の下半身に注がれる。


「昨日からレイのそれ気になる…」


 ハルちゃんの丸い瞳がさらに丸くなる。興味津々きょうみしんしんだった。彼女のうるわしいくちびるが僕に問いかける。


さわっていい?」


 減るものでもない。それに、ハルちゃんの頼みなら断れない。だから僕はOKした。


「はぁん」


 僕のそれをためらいなく指でつつくハルちゃん。僕は無意識むいしきに変な声が出た。それを見上げてハルちゃんは一瞬いっしゅんだけおどろくけれど、その後すぐにもう一回、つつく。


「はうっ」


 丸い瞳がいっそう丸くなる。そしてすぐに目を細めニヤリとするハルちゃん。ハルちゃんはどんな表情でもかわいいけれど…、いや、かわいかった。


「レイ、おもしろい!」


 どうやら喜んでいるらしい。ハルちゃんの嬉しそうな顔は僕もうれしい。けれど、何度もつつかれていると僕もだんだん困ってくる…。しかも、不思議なことに繰り返されているとたまらなくうれしくなってきた。


 だから、このやり取りはハルちゃんがきるまで続いた。さんざん僕のあれをいじりまわしたハルちゃんが満足すると、ハルちゃんはようやくある疑問ぎもんにたどり着く。


「ところで、これ何に使うの?」


 ハルちゃんは何度もつついておきながら、今更いまさらの質問であった。


「これはトイレのときに…」


 説明するとハルちゃんの笑顔が消えた。急に汚いものを見下ろすようにするどく暗い表情に変わってしまう。そんなハルちゃんの表情の変遷へんせんを見つめる僕もまた、心臓のどきどきが止まらなかった。今まで味わったことのない胸の苦しみが彼女と一緒いっしょにいるとずっと起こっている。


「それにしても、子づくりってどうするんだろう?」


 生命の創造そうぞうはシジディア自慢じまんの一つである。ディストピランドが保有する高い科学テクノロジーを用いてようやく生命を生み出せると言う。いわば世界でもシジディアにしかできない特別なことなのである。


 人間を生み出すと言うのはそれほど大変なことであるのに、僕たち二人。原始的げんしてきで下等だとする人間がそろってどうしろというのであろうか。もしかしたらシジディアは僕たちに無力さを知らしめるためにわざとこんなことをしているのかもしれない。


 ただ、僕は一つ疑問が沸いていた。


「僕たち男の子と女の子はどうしてこんなに違うのかな?」


 シジディアは無謬むびゅうの存在。完璧でゆるぎないのにどうして人間を二種類以上生み出したのだろうか? 完璧ならば一つで良かったはずである。自由に生命を創造できる神であるならば最初からこんな不完全な姿すがたではなく、雌雄しゆう同体どうたいで完璧な知性を与えてくれれば僕たちは苦労せずに済んだ。


 なのに、僕とハルちゃんを比べても、身長も体つきも顔つきも、声も髪の色もちょっと違うし、肌の色もどことなく違う。


「シジディアはどうして僕たちを違う作りにしたんだろう?」


 真面目まじめに考える僕と対照的たいしょうてきに、ハルちゃんはちょっと退屈たいくつだったらしい。また僕のあれをつつきはじめる。


「違うってこれのこと?」


「はうっ!」


 それに、どうして僕たちが選ばれたんだろう?


 シジディアは大量生産たいりょうせいさんが豊かさの象徴しょうちょうだと言う。画一的かくいつてきに同じものをたくさん作ってみんなに供給きょうきゅうすれば、みんなが幸せになれる。どんなに複雑ふくざつなものだって、たくさん同じものを作ればいつかはみんなに供給されて豊かになる。


「だけど、僕たちは全然ぜんぜん違うんだ!」


「えい!」


「はうっん! このミッション。僕たちの違いに攻略こうりゃくの秘密があるんじゃないだろうか?」


「うん、レイの言う通りかもしれない」


「だから、ハルちゃんの体を調べてもいい?」


 ハルちゃんの手がぴたりと止まる。ハルちゃんは僕を見上げてその丸い瞳を見せる。


「うん、いいよ! 完璧に近づこう!」

 

 これ、完全なる同意どういの言葉に聞こえますよね?

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る