03 パワーアップする僕


 いつの間にか眠っていた。


「ん、うぅん」


 しかし、聞きなれない声で目覚めざめる。僕が目を開くと、あの子の顔が目の前にあった。そして琥珀こはくいろの瞳が僕を見る。目の前の僕を見てちょっとだけおどろいた様子だった。でも、そのすぐあとに、ささやくように僕に語りかける。


「もしかして、君が私の男の子?」


 性別。シジディアに言わせればそんなものは完璧かんぺきな存在には不要とされている。性とは僕たちが捨てなくてはならないこととされていた。僕たちはシジディアのようにはなれないけれど、目指すべきは可能な限りの完璧な生命体。それは、雌雄しゆう同体どうたい(オスメスの区別がない動物)に近い体とシジディアを支えられるだけの知性をもつことである。


「そうすると、君は女の子?」


 実はこのディストピランドの歴史に男女が登場する。創始者そうししゃは女性だったという。完璧なシジディアを生み出した人間がいたのだ。その創始者は、出資者しゅっししゃと結婚した。だから、完璧になれたのである。


 えっ? 結婚って何かって? 自由主義ではそんなことも教えてもらえないんだね。可哀想かわいそうに…。


 結婚とは男女が合わさり完璧になることだとシジディアは言う。人間は両性がそろわなければ完璧になれない。だから、結婚したのである。一方で、完成していない人間は結婚していないのである。そして、孤立している僕らを指してシジディアは僕たちが未完成であるとなげくのである。僕らが生まれてからずっと人間が不完全と教え込まれ、それが僕たちにとっての最大のはじなのである。


 だから、初めて会った女の子が目を輝かせながらこんなことを言ったのだ。


「私たち結婚すれば完璧になれるのかな?」


 嬉しそうだった。僕も嬉しかった。シジディアに見下されて育ってきた僕たちだけど、この子といれば完璧になってシジディアのように上位じょうい概念がいねんになるかもしれない。だとしたら、それはこの世界で最大の目的を達成したようなものである。


「そうだね。頑張って結婚しようね!」


「うん!」


 僕と女の子は狭いベッドの中で手を取って喜んだ。正直、僕は完璧になるかどうかなんてどうでもよかった。女の子の手に振れていると心の底から幸せになれる。弾ける女の子の笑顔を見ていると僕の心も弾けるように嬉しかった。


 そして、彼女が起き上がると、布団ふとんがするりと落ちて白い背中があらわになる。


 僕たちディストピランドの人民は普段から割と裸で過ごす。暑かったり寒かったりするコンテナでの生活だからそれが普通だった。普段は裸なんて平気なんだ。けれど、この子の裸を見ていると頭が熱くなるようだった。


 このディストピランドにおいてあらゆる人間らしい感情は表に出してはいけない。だからこそ感情の存在は秘匿ひとくされ、当然ながら「羞恥しゅうちしん」なんてものも教育されない。


 そんな何も知らない無垢むくな僕だけど、それでも女の子の肌が珍しくてなぜか目を引くのでじっと見ていてた。女の子も別に気にするようでもないけれど、でも、なんとなく気の毒にも感じた。じっくり見ていると女の子の肌に鳥肌が立っているのも見えた。寒いらしい。だから、僕は着ていたシャツを脱いで女の子に渡すのだった。


「とりあえず、これ着なよ」


「ありがとう! 寒かった」


 僕よりちょっと小柄こがらな彼女がするりとシャツを着ると、ちょうどお尻がギリギリかくれる長さになった。相変わらず、女の子の胸の膨らみはとっても目立つ。そんな様子を見ていたらいよいよ僕についている余計なものが膨れ上がってくる。


 そして、僕は気づいてしまった。


(もしかして、女の子といるとパワーアップするのかな、僕は完璧に近づいているのかもしれない)


 やっぱり、早くこの子と結婚しよう。でも、僕たちは一体どうすればいのだろう?

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