第6話 北欧神話

 本日は北欧神話。いわゆる「陸のケルト」ですね。いわゆる現代の一般的なファンタジーの素地と言えばたいていが北欧か、ギリシアになる感じですが。元ネタにする人が多い=それだけ神話としての完成度が高いわけですよね。それを元ネタにする人の方に噴飯ものの方が多いんですが。北欧モチーフです、と謳っておきながらミノタウロスやケルベロスが登場したり。


 さておき。もともとケルトというかゲール(ガリア)人というのは現在のフランス一帯に住んでいたわけですが、ローマに責め立てられて北だったり東だったりに奔らされ、北の海を渡ったのが島のケルトことダーナ神族、東に走り北欧に住み着くに至ったのが、陸のケルトことアース神族でした。


 現在伝わる創世神話としては「まず南方にあるムスッペル(炎の巨人の国)にスルトがおり、神と世界を滅ぼす日をこのときからすでに待っている。北にはニフルヘイムという氷の領域があり、中心にはフヴェルゲルミルの泉があり、フヴェルゲルミルは11の支流を持つ。この南北の国の間に、ギンヌンガァプ(欠伸する裂け目の意。虚無の国)があって、フヴェルゲルミルの水が流れ込むとここは毒霧と疾風に包まれるようになった。


 北方が完全に凍てついた頃、南のムスッベルは溶けて燃え輝くばかり。この時両国の気を受けてギンヌンガァプの空気は澄んだ穏やかなものになり、ニフルヘイムからの風はギンヌンガァプの氷をわずかに融かし、雫をしたたらせます。この雫の中で原初の生命が胎動し、一人の巨人となります。この巨人の名をユミル。


 ユミルは霜の巨人で、生まれた瞬間から邪悪だったといいます。人間の創造はえらくぞんざいで、彼が寝ている間にかいた脇の寝汗から、一対の男女が生まれたとされます。ちなみにこのとき同時に足をこすりあわせたユミルの足裏から生まれたのが霜の巨人たちです。霜の巨人たちはこの自分達の祖をアウルゲルミルと呼びました。


 ギンヌンガァプでさらに多くの氷が溶け出すと、その雫は雌牛アウドムラとなります。ユミルは彼女の乳を飲んで食事としていましたが、アウドムラの食事はそこらへんの氷でした。


 創世の最初の日。アウドムラが氷を舐めていると、氷の中から人間の髪が見え、さらに舐めると二日目には人間の首が現れました。三日目。ついに最初の人間が姿を現します。彼の名はブーリ。


 プーリは逞しく長身で美男子でもありましたが、彼自身についての言及はあまりありません。息子ボルが霜の巨人ボルソルンの娘ベストラと結婚し、ここから生まれたのが「人間」オーディン、ヴィリ、ヴェーでした。


 ……この創世神話自体が、本来は違うのですけどね。本来天神として北欧を支配していた絶対無二の神はこのアース神族の神話においては武勇と勝利の神というチンピラに堕とされたチュールであり、最強の雷神ながらおつむの弱いトールもまた、本来的には雷が地に与える栄養とそれによる豊穣を約束する、軍神であり豊穣神でした。ただ、この源神話に関してはほとんど資料がなく、「オーディンを始祖とするアース神話は後世付託されたもので正統とは違う」程度のことしか知らず、大層なことは言えないのですが。まず確かなことはオーディンは北欧の正統な神ではなく、異国から流れてきて「知恵」という武器で北欧の素朴な神々を従えるに至ったなんらかの文化英雄の神格化、ということです。


 ともかくも、チュール神話はわからないのでオーディン神話を続けますけども。オーディンたち三兄弟は自分達を取り巻く環境……火の国ムスッペルと氷の国ニフルヘイム、空虚なギンヌンガァプだけの世界……に嫌気がさし、さらにはユミルの眷属・乱暴者の霜の巨人たちに腹を立てて、とうとう全ての生命の祖、ユミルを攻撃して殺します。ユミルという巨人は全ての巨人族の中でも破格に巨大でしたから、流れ出る血はおびただしく、その洪水で霜の巨人はベルゲルミルとその妻を除き、全員、溺死してしまったと言うことです。


 しかるのち、オーディンとヴィリとヴェーはユミルの身体引き裂いて宇宙を創造しました。肉からは大地を、骨からは山脈を創り、血からは湖と海を創りました。大地を創造した後で海洋を周囲に巡らせましたが、およそ人間が渡りきることを最初から考えられないような広さだったと言います。


 さらにユミルの頭蓋骨から天空を拵え、四つの角が指し示す方角に東西南北と名付け、それぞれの方位に小人を起きました。さらにムスッペルから飛び火してくる強烈な炎、これを捕まえて天にちりばめ、太陽と月と星と名付けます。星のあるものは中天に静止し、あるものは定められた軌道を進むように決められました。


 大地は丸く、輪形をなし、オーディンらは霜の巨人ベルゲルミルの子孫たちに土地の一角を与えました。ここをヨトゥンヘイムといいいます。三兄弟は巨人たちが大嫌いでしたから、ここから遠く離れたところに国を創り、城郭で囲ってそこに住むことにします。これがミッドガルド(中つ国)。ちなみに雲はなんでできたかというと、ユミルの脳みそでした。


 三兄弟はここでやや傲り、人間を創ります。もともと自分達も人間から生まれた存在であるわけですが。トネリコと楡の木で創られた最初の男はアスク、女性はエンブラ。オーディンが魂を、ヴィリが感情と感受性を、ヴェーが視聴覚などの感覚を与え、ミッドガルドを人の領域として明け渡しました。


 オーディンは巨人族のとその(三番目の夫デリングとの間の)息子を捕まえると、駿馬に乗せて毎日毎夜、延々と天を運行させるようにします。《昼》を乗せるのはフリムファクシ、《夜》が乗せられるのはスキンファクシ。この母子の犠牲によって世界には昼夜が規則正しく訪れる、と言うことになります。


 最初太陽と月は世界に据え付けられていたのですけれども、ミッドガルドの人間のなかに《太陽》《月》を自称する姉弟がいたのでオーディンはその不遜に腹を立て、彼らを攫うと天の戦車に乗せて太陽と月の運行を司らせました。太陽がいつも急いで沈んでいくように見えるのは、彼女がスコールという狼に追い立てられているからだと言います。また月もハティという狼に追い立てられ、やがて終末の時、この姉弟は狼に捕まり喰われるさだめにあります。


 そしてオーディンたちはユミルの身体に残ったウジ虫を使って小人(ドヴェルヴ=ドワーフ)を創造、最初のドヴェルヴはモードソグニルといい、だいたいにおいて狡猾な種族ながら、工芸品・魔術の品を創る技量にかけて比肩するものがありません。


 こうして世界の大枠ができてから、オーディンたちはあらためて自分達の国、アスガルドを築きます。この国は比類なく美しく、広大で、頑健な城塞であり、ミッドガルドの高みの平原から虹の橋ビフレストで結ばれていましたが、この橋は神々の門番・勇気のヘイムダルに護られて終末のラグナロクの時まで、なんぴとの侵掠を許すこともありませんでした。……と、いいつつしばしばピンチに陥るのですけれど。


 そしてこれら創世されたすべては、最善のトネリコ・ユグドラシルにつながり、その枝の下に広がっています。三つの根はアスガルドとヨトゥンヘイム、ニフルヘイムにつながり、それぞれの下には泉があり、枝上には鷹と鷲が、枝のほとりでは鹿が根を少しずつかじり、リスは上へ下へと走り回ります。そして根の一番底では邪竜ニーズヘッグが、盛大に牙を立ててかじっているのでした。終末の時、ユグドラシルはニーズヘッグにより倒され、スルトの炎で焼かれますが、また再生して新しい《万物の父=アルファズール》の到来を待つのだとされています。


 続きはロキの子供たちの説話と、神々の宝物の説話になります。


 ロキの子ら

 ロキにはシギュンという貞淑な妻がいましたが、彼の有名な三人の子供はロキとシギュンの間の子ではありません。ロキがシギュンの貞淑と忠実に満足せず、ヨトゥンヘイムの女巨人アングルボザと間にもうけた子です。


 長子は狼フェンリル、次子は蛇ヨルムンガンド、三番目はヘル。神々はいつもロキのいたずらに手を焼いていましたから、この子供たちがロキから生まれたと知ると非常に不安がりました。ノルン(運命の三女神。上からウルド、ヴェルダンディ、スクルド)たちに相談しましたが、彼女らは「彼から被る最悪のこと以外、なにも期待するな」と言うのみで解決法を提示しません。なのでオーディン以下の神々は4人(母アングルボザ含む)を捕えることに決めます。ヨトゥンヘイムを強襲、アングルボザに猿ぐつわを噛ませて捕え、まずヨルムンガンドをミッドガルド外辺の海に放り捨てます。溺れさせるはずでしたが、ヨルムンガンドはたちまちに成長してミッドガルドの海を囲みきってしまいました。このためヨルムンガンドはミッドガルドの大蛇とも言われます。


 ついでオーディンはヘルをニフルヘイムの霧と闇の中に放り込みます。彼女はニフルヘイムの9つの国を支配し、死者の家エリュードニルを築き、悠々と女王然として過ごします。彼女のナイフは《飢え》であり、ベッドは《病床》、病床のとばりは《ほのめく不幸》でした。フェンリル狼だけは普通の狼に見えましたが、一番強力なのはこの魔狼でした。全ての神の中にあって彼に食事……肉の塊……を与えられたのはオーディンの子(という扱いにされた)チュールだけでした。ノルンたちは「彼こそオーディンに死をもたらす者」と警告し、以後フェンリルは日に日に巨大化していきます。ノルンたちはしきりに警告を繰り返し、神々は彼に足かせをはめることを決意しました。まずリングウィル島にフェンリルを連れ出し、レーティングという鉄の鎖がフェンリルの足に巻きましたが、瞬時に砕かれます。ついでドローミという鎖はレーティングの数倍の硬度でしたが、これも粉々。最後に、小人たちに作らせたグレイプニルの縄、「猫の足音、女の髭、山の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾」で作られたこれがついにフェンリルを絡め取ります。フェンリルはこれが小人の魔術の品であることが分かったので身に巻かせることを拒んだのですが、チュールが担保として自分の右腕をフェンリルの顎門に差し入れたので我慢して巻かせ、そしてやはり謀られたと知った瞬間、チュールの腕を食いちぎりました。そのときほかの神々が笑っているわけです。これは神喰らう狼をようやくとらえたという意味でもあり、かつての主神チュールの王権がこれによりオーディンに移ったことの象徴神話でもあります。


 神々はグレイプニルの端にゲルギヤという鎖をつけ、その端をギョルという、大丸石につなぐと1マイルほどの深さに埋めました。さらにギョルを固定するためスヴァティという大岩を落としました。フェンリルはなおも身をゆすり、暴れ、大口を開けますが、このとき神の一人が剣を抜き、フェンリルのあごを地面に串刺しで縫い留めます。フェンリルは遠吠えし、涎を垂らし、これがリングウィル島の支流アーム《期待》川となりました>

フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル。この三匹の怪物はそれぞれに終末の日を待ちます。


神々の宝物

 神々はオーディンのグングニル、トールのミョルニルなどそれぞれの持物がありますが、これはもともと神の持ち物ではなく小人たちが作って与えたものです。小人たちが進んで神々にプレゼントしたのではなく、ロキの計略により献じさせられたのでした。いきさつとしてはロキがまず雷神トールの妻シフの髪を刈り取るといういたずらをします→トールブチ切れ→殺すぞロキぃ! →ロキは冗談だったから許せというものの、トールは聞かず。殺そうとしますがロキがシフの髪と、それともっと素晴らしい宝を持ってくると言ったのでかろうじて命だけは助けました。


 シフの髪をもとに戻せるとしたら小人しかいません。なのでロキはまず小人イーヴァルディの息子たちに会いに生き、まず前以上に見事な、輝き風になびく金のかつらを作らせます。ついでにスキーズブラズニルという分解可能な大船と、稲妻の神槍グングニルをも作らせ……そしてすぐ帰るのではなく、ブロックとエイトリという小人の館を訪れるとイーヴァルディの息子らと彼らの対抗意識をあおり、これより優れたものを作るなんて、キミらには無理だよ、と煽ります。


 煽られたブロックとエイトリは完璧な黄金の猪、草原も海も空も構わず駆けるグリンブルスティ、また同じく完璧な黄金の腕輪、9日ごとに自分と全く重さの金腕輪を8つ生み出すドラウプニル、そしてもう一つ完璧なものを作るはずがロキの横やりで不完全になった銀の大斧、雷霆のミョルニルを作りました。


ロキは両者を連れてアスガルドに戻り、彼らにプレゼンさせて、「勝者に神々の感謝と友情を」、そしてイーヴァルディはシフにかつらを、スキーズブラズニルをヴァン神族の王子であり神々の福王であるフレイに、グングニルをオーディンに捧げ、ブロックとエイトリはグリンブルスティをフレイに、ドラウプニルをオーディンに、ミョルニルをトールに捧げます。そして神々が最も素晴らしいものと決したのは、ロキが邪魔をして不完全なものとなった大斧ミョルニルでした。ブロックは賞品としてロキの頭を求め、神々は進退窮まるロキを嘲笑しますが、ロキは「頭をとってもいいが、首に触れるのは許さない」こう言ってまぬかれるものの、ブロックはならせめてお前の口を縫い合わせる、と腕を伸ばします。ブロックのナイフでロキを傷つけることは出来なかったのですが、兄エイトリの錐を借りると刃が通り、革ひもでロキの口を縫い留めます。この革ひもはすぐに引きちぎられますが、激痛にロキは復讐の事ばかり考えるようになったとのこと。それまでのロキはいたずら好きの変質者ではあっても外道な悪魔ではなかったのですけども、このあたりから神々の黄昏の予兆が始まります。


バルドルの死

 北欧において最も美しく、もっとも優しく聡明な神はといえば光の神バルドルです。しかしこの神が「今の」北欧神話において活躍することはありません。彼はずっとあと、神々の黄昏ラグナロクのあとに生まれ変わって、アルファズール(万物の父)としての座をオーディンから継承する存在です。


 なのでバルドルは「死ななければならない」神でした。彼の死を端緒にして神々の黄昏が始まるので、必要なことではありますが。ともかく自分の光を消そうと襲ってくるしゃれこうべの群れを夢に見たバルドルは、自分の命数がつきたことを痛感します。


 この言葉を聞いたアスガルドの神々は誰もバルドルの夢の本質を解き明かせませんでしたから、珍しく、主神オーディンが自分で行って聞いてこようと、多足の名馬スレイプニルにまたがり、虹の橋ビフレストを越えミッドガルドを経てニフルヘイムの死と霧の世界に。地獄の番犬ガルムを軽くあしらい、使者たちの集うヘルの館に。そこには黄金の腕輪や飾り物があちらこちらにばらまかれており、誰かを待ち焦がれるかのよう。オーディンが館の東で呪文を唱えると女預言者の亡霊が現れ、「わたしを起こす者は誰か、わたしは長いこと死んでいたのに」

オーディン「あの黄金の腕輪はなんで、いったい誰を待っているのか?」

女預言者「バルドルを待つ。全ての栄光を持つ彼のために、神々は絶望に落ちるだろう。盲目のヘズがバルドルを殺す」

 さらに女預言者はオーディンがリンドと寝てヴァーリという子をもうけること、彼が生後一ヶ月で復讐を果たすことを告げます。


 重い足取りでアスガルドに帰ったオーディンが神々にこのことを告げると一座は昏く沈み込みましたが、すぐにバルドルの死を回避する方向に意識を切り替え、バルドルの母フリッカが9界を渡り歩いて、あやゆるものに「バルドルを傷つけない」という誓いを立てさせます。これによってバルドルは半ば不死身となり、神々はその不死性を確認するといって石を投げつけ、行為はエスカレートして剣や斧を打ち付けたりもしましたが、バルドルは「微塵も感じませんでした」と。


 これでアスガルドは安泰と喜ぶ神々の中で、唯一ロキは例外でした。どうにかバルドルを傷つけてやろうと考えたロキはグラズヘイム(アスガルドのうち男神が治める土地。女神が住むのはヴィンゴルヴ)の扉を出て女神フリッカのもとに向かい、巨人の女老婆に化けてフリッカからバルドルの秘密……ヴァルハラの西の果てに咲く、小さなヤドリギだけはバルドルを傷つけうる……を聞くと死者たちの野ヴァルハラを訪れ、一本の樫の木の幹から生えるヤドリギを見つけると今度はグラズヘイムに戻りバルドルの兄弟・ヘズのもとに。そしてヘズに絶対バルドルが死ぬことはないから神々の遊びに参加するのだと説くと、自分の手でヘズの手を取り、ヤドリギを全力でバルドルめがけて投げつけました。もとより命数はつきているバルドルにとってどんな貧弱なものであっても致命傷たり得るわけで、この若木の一撃でバルドルは死んでしまいます。フリッカはどうにかして息子をとりもどそうとオーディンの息子ヘルモードを死者の国に派遣しますが、9界の誰一人として泣かないことがなかったら、バルドルは蘇るという約束に、セックというひとりの女巨人だけが反対した……この女巨人はロキの変身した姿なわけですが……ためにバルドルは生き返れなかったと言います。


 これ以後、ロキは神々全員に宣戦布告の呪詛の言葉をかけ、アスガルドを立ち去ります。神々は追っ手をかけ、ついに鮭に変身して川の中を逃げるロキをトールが捕まえました。捕縛されたロキは変身させられた息子ヴァーリ……オーディンの息子とは別……に食い殺されたもう一人の息子ナルヴィのはらわたで作った縄で戒められ、魔術を施されたその縄でロキの身体を岩にくくりつけるとはらわたは岩のように硬くなりました。ついで神スカジが毒蛇を持って牢獄のほらあなにやってくると、蛇の毒液がロキの頭にしたたり落ちるようにつなぎました。毒がしたたるのを、ロキの貞淑な妻シギュンは木の鉢で受け止め、支えますが、鉢がいっぱいになるとその場を離れて棄てにいかねば成りません。その間無防備なロキが顔面に毒液を受け、身もだえするたびに大地が震動しました。これが地震の起こりだと言うことです。


ラグナロク

 のち、狼スコールとハティがそれぞれ、太陽と月を食い殺します。これに大地は震え上がり、すべての戒めは解き放たれました。赤と金と赤茶のとさかの雄鳥が啼いて巨人を呼び覚まし、ヴァルハラのエインヘリヤル……死せる英雄たち……を起こし、そしてヘルの地獄の死者を起こしました。


 まずヨルムンガンドが暴れ出して海から軍勢が起こります。死者の爪で出来た戦艦ナグルファルに乗って、巨人たちが大挙します。そしてフェンリルとヨルムンガンドは並んで行軍してきました。フェンリルの顎門は月を一呑みにするほど大きく、目の中に走る火花は花から溢れました。ヨルムンガンドの唾液は天地の全てを汚染し殺さずには済みません。彼らの父ロキも自由を得て、北方からアスガルドのヴィグリード平原を目指しました。その後ろにはスルトとムスッベルの炎の巨人たちが続きます。


 神がみの方も備えを開始します。まずビフレストの番人・ヘイムダルがギャッラルホルンを吹き、全ての神々に危急を知らせました。世界樹ユグドラシルもうめき、わななくなか、まず主神オーディンがすべてのエインヘリヤルを起こして一斉に起ちます。エインヘリヤルは800人を一部隊として540の扉から出陣、総勢432000ということになります。神槍グングニルを掲げたオーディンがフェンリルと戦い、月食む狼はアルファズール……万物の父。オーディンのこと……を食い殺しますが、すぐさまオーディンの息子ヴィザルが、フェンリルのアゴを引き裂いて仇討ちを果たします。


 怪力無双、雷霆ミョルニルを手にしたトールはその隣で、ヨルムンガンドを相手に戦いました。両者は過去にも戦ったことがあり、互角。今回トールのミョルニルはヨルムンガンドを叩き殺しますが、かの蛇の猛毒はトールをむしばみ、9歩下がった後トールも死ぬことに。


 ヴァン神族の王子フレイはムスッベルの王スルトと対峙しました。本来彼は「勝利の剣」という最強の魔法の剣を持っており、これがスルトを切り倒すはずでしたが、彼はかつて巨人族の美しい娘をてにいれるためにこの剣を手放しており、鹿の角で戦うことになりスルトの炎で焼き殺されることになります。


 チュールには地獄の番犬ガルムが遅いかかり、相打ちに。9界ことごとく燃え尽き、神もエインヘリヤルも人も妖精も小人も巨人も、怪物も竜も小鳥も獣も死に絶え、空の星は落ち、大地は海に沈み果てたといいます。


 やがて大地が新生し、このときオーディンの息子ヴィザルとヴァーリはまだ生きていました。またトールの息子モージとマグニも。バルドルとヘズも死者の国から解き放たれ、新しい輝く平原イダヴェルに神殿を築いて新しい神話を再創世します。これが北欧における神話の、ざっくりとした流れでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る