最強と言われる所以
「この辺りでいいかな・・・」
三十分ぐらい歩いただろか周りを見渡しながらようやくアルベールは立ち止まる。立ち止まった所は人通りが少ない誰にも使われてないだだっ広い空き地。何も言わずついてきてくれと言われたからついてきたけど証明の内容が知りたくて俺は思わず聞いた。
「証明してくれると言ったのは俺だけどさぁ、実際何を持って異世界から来た証明にするんだ?」
「ん?簡単な話さ。この世界には魔法が存在しないんだろう?事実こっちに来てから全くと言っていいほど魔力が感じ取れない。ならばそれを披露したらシュウも信じてくれるかなって思ってさ!」
そういってアルベールは少し離れててと俺達に言って空き地の中央に歩いて行った。……ある程度こいつらの身なりと口ぶりから予想はしてたけど本当に魔法が使えるのかよ!!!動画とか撮ってスクープ記事にしたら売れたりしないかな?いや、CGだろって一蹴されて終わりか…!しかしオタクとして俺はこの映像を取らないといけない義務がある。心中そんな事を考えながらスマホのカメラをこっそり起動していると横にいたスカーレットから声を掛けられる
「あんたみたいな何の特徴もない剣を拾っただけの一般人がアルベール様の魔法をお目にかかれる事に死ぬほど感謝しなさい。」
「あのお方の付き人になって数か月。私達ですら数回しかアルベール様の魔法は見たことがない。あなたは相当運がいい。」
「や、やっぱりお前らのアルベールへの尊敬ぶりを見る感じあいつはあっちの世界でも凄い奴なのか…?」
「凄いなんてもんじゃないわよ!!あのお方は我が王国ギルドの中でも最強の個々と言われた【十王】の序列第一位"聖帝”と呼ばれたアルベール・デュラン様その人よ!!」
「長年謎に包まれていた世界的な遺跡の発見、エルダードラゴンの討伐、功績を挙げればキリがない。まさに一騎当千…!」
「近い近いッ!!分かった!!分かったから!!」
アルベールの事を聞いたら二人は物凄く鼻息を荒くしながらアルベールの凄さを熱弁してきた。あんまり表情が出ないセレンさえもだ。出てきた単語の殆どが理解できなかったがとりあえず俺の目の前にいるイケメンがとんでもない奴だという事は分かった。後あまりにもアルベールの凄さを伝えたいのか二人とも俺に対しての距離感がバグってやがる…‼スカーレットの豊満な胸とセレンの小さくも主張している胸がずっと当たってる……凄く嬉しいけど黙ってたらバレたときに更に酷い仕打ちをくらいそうだ。
「それでね‼アルベール様は魔力が少なくていい扱いを受けていない民にも---」
「ちょ、ちょっとお二人さん?あのぉ…胸が…その…」
「急に何よ‼胸がどうしたって…ッ!!!」
「あ、凄い当ててた。スカーレットも私も。アルベール様の事で夢中になりすぎてて全然気づかなかった。…興奮した?」
「んぇっ!?い、いや全然?結構慣れてるし‼」
かなり童貞臭い台詞吐いちまった!!まぁ童貞なんだけど。勝手に自爆して自己嫌悪に陥っていると隣から紅いオーラと共にとてつもない熱さを感じ取った。恐る恐る首を左に向けてみるとそこには表情は見えないが確実にキレているのが分かるスカレーットがいた。…ポニーテールをゆらゆら揺らしながら。
「めちゃくちゃキレてますやん…?で、でも俺は悪くないだろ!!故意に触ったわけでもない!!触れただけだって!!そうだよな⁉セレン⁉」
「(こくこく)」
「……殺すッ!!」
スカーレットは左手を俺にかざし何かブツブツ言い始めた。そうすると向けられた左手に真っ赤な魔方陣が展開される中央には蛇?のようなものが描かれている魔方陣だ。
こいつは素人目に見ても分かる。こんなの食らったら確実に死ぬ!!そう思った俺は踵を返そうとした瞬間---
「おーい!三人で楽しそうな所悪いんだけど本来の目的忘れてないー?」
そういって呑気な顔をしながらこちらに問いかけてくるアルベール。俺はすかさずアルベールに言い返す。
「これのどこが楽しそうに見えるんだよ!!会ってまだ数時間しか経ってないけどお前が人を育てるスキルがないって事はよーく分かった!」
「それ私に言ってるの⁉やっぱり力づくで奪いましょうアルベール様!!こんな奴に時間を割く理由はありません!!」
「スカーレットキレすぎ。頭も魔法もすぐ燃える。」
「あんたはどっちの味方なのよ!!」
「何が起きてたのかよく分からないけどとりあえず僕が魔法を見せる事でシュウは剣を渡してくれるって言ってるんだからそれでいいじゃないか!ね?」
そう言いながら俺に同意を求めてくるアルベール。俺はそのアルベールに恐怖を感じた。顔は笑っているのに目つきはとても鋭い。まるで渡さなければその後の事はどうなるかは分からないとでも言ってるように感じたからだ。溜まらず息を飲んだ。
「じゃあ、準備はいいかな!この世界は魔素がないから本当は非常事態に備えて温存しておきたい所なんだ。だから控えめに行くよ~!!」
その言葉と共にアルベールは目をつむり何かに集中しはじめた。するとどうした事か。周りが黄金色に発光しはじめるではないか。奴の下には眩いほどの黄金の光が。その周りには黄金の残滓のようなものがふよふよ奴を取り巻くように蠢いている。
「ま、眩しすぎる!!スカレーット!!セレン!!ありゃ一体なんだ!!」
あまりの眩しさに思わず俺は顔を手で覆いながら半目でしか奴を見る事が出来ない。そうしなければ目がやられるのではないかと思わせるほどの光だ。それになんだ...このなんとも言えないプレッシャーは。高校や大学受験の合格発表などでとてつもない緊張とプレッシャーを感じたことはあるけどそんなのとは比にならない経験したことのないプレッシャーだ。命を狙われているわけでもないのに思わず土下座して命を乞うのが正解だと脳が勘違いする程の圧力。これが圧倒的強者が使う『魔法』なのか...!
「くっ...!あ、あれは聖魔法よ!!王国のそれも選ばれた人間しか使用する事が出来ない伝説の魔法!あんたは初めて見るからしょうがないのかもしれないけど本来アルベール様の力はこんなもんじゃないんだからね!
「それにしても凄い威力...!私達もアルベール様の力を見るのは久しぶり。」
やはりアルベールはとんでもないのだろう。俺よりは何倍もマシだがこの二人も魔力に充てられて顔を少し覆いながらアルベールを見ている。それにしても光もそうだがあいつが魔力を集中しているせいか風圧がやべぇ!!!日頃の運動不足がこんな所で影響してくるとはな!!まじで吹き飛ばされそうだ!!
そんな事を考えながら耐えていると突如光と音が止んだ。
「いやーやっぱり魔素がないから魔力を自分の体内で一から練るのは骨が折れるな。...どうだい?中々カッコいいもんだろ?」
そう言ってアルベールはこちらに笑いかける。そこにはいつも通りのアルベールが立っている。神に作られたような精巧な顔つきをした青年が。さっきのようなとてつもない黄金のような光や風圧などなく数時間前に会った時の同じ見た目で。ただ二つだけ違う点がある。それは目測180以上はあろうアルベールの身長をゆうに超す神々しい槍を左手に持っているという点とアルベールが立っていた地面がとてつもなく抉れているという点だ。俺はその現状を見てありきたりた事しか口に出来なかった。
「アルベールさん?いや様って呼んだ方がいいですかね!?その左手に持っている槍は...?」
「なんだいかしこまっちゃって!さっきみたいにアルベールでいいよ。この槍は持ってるも何も見ていただろ?生み出したんだよ。僕の力で」
「あ、左様ですか。」
俺は思わず生返事しかできない。アルベールは駆け寄っていったスカーレットとセレンと楽しく話している。もう一度アルベールが作り出した槍をまじまじと見てみるが素人目に見ても分かる。あれはヤバい。直感がそう言っている。...折角オタクの願望でもある魔法を見せてもらったのにそこに喜びや感動はなかった。分かったのは俺が踏み入っていい領域では到底無いという事ただそれだけだった。
「アルベール様!!もうこいつには証明出来たでしょうしその...魔素もないこの世界では魔力がいつまで持つか分かりませんしもう解除なされては?」
「うーんそれもそうだね!シュウもこれで信じてくれたかな?」
「え...?あ、あぁ。」
「よかった!んじゃこれはもういらない...ねっ!!」
スカーレットの助言を素直に聞き入れたアルベールはそのまま魔法を解除するのかと思いきや、やり投げ選手の如く天に向かってぶん投げた。
「お、おい!何して---」
アルベールに思わず文句を言おうとしたがそれは叶わなかった。今は夜の21:00頃空は真っ暗でしっかりと夜の筈だ。なのになんだこれは空が光っている。ただ槍が通り過ぎたそれだけのなのに日本晴れを思わせるほどの明るさ。いや、それとも違う何故なら空が黄金色に光っているからだ。そこで俺はハッキリと見た。て、天が割れている。思考を放棄しそうになる頭でもとてつもない威力という事だけを俺は理解した。
「ちょ、ちょっと時間的にもまずかったかなぁ...シュウに出来るだけデカいインパクトで認識してもらおうと思ったんだけど。」
人差し指でその端正な顔をかきながらバツが悪そうな顔でアルベールが言う。
「でも、アルベール様の考え通りには言ったみたい。ほらあそこで放心顔で動けなくなってる。」
「当たり前よ!アルベール様の凄さを目の当たりにしてああならない方がおかしいわ!」
その通りだ。現に俺は全く動けないでいる。ようやく少し現実に戻ってきたところでアルベールが話しかけてきた。
「それじゃ約束通り剣を渡してもらっていいかな?」
♦
「うん!確かにいただいたよ!」
俺は帰ってきてすぐにアルベールに剣を渡した。正直言ってこの剣がどんなものか気にならない訳ではないが到底俺自身が扱う代物じゃないのだろうという気持ちとさっさとこの非現実から今まで通りの生活に戻りたかった。魔法やそれに伴う異世界などに憧れていたが現実を見てしまった今憧れの気持ちよりも恐怖と忌避が勝っていた。
「一応言っておくけど!今日あった事は誰にも言うんじゃないわよ!まぁ言った所で誰も信用しちゃくれないでしょうけど!」
「分かってるよ!そもそも言う相手もいないしな。」
「ん。シンプルにかわいそう。」
「同情だけは辞めろっ!尚更情けなくなるだろ!ほら帰った帰った!俺は明日もバイトなんだよ」
「色々迷惑かけたね。大したお礼も出来ずに申し訳ないけどせめてこの剣は役立てる事を誓うよ。」
「あーそりゃどうも。俺にとっちゃただそこらへんで適当に拾った剣に過ぎないからそんなに深く考えてくれなくていいよ。」
それじゃ失礼するよ。そう言い残し三人は俺の家から出ていく。ようやく俺の日常が返ってくる。それを噛みしめながらドアを閉め---
ドォォォン!!!
「「「「!?」」」」
けたたましい轟音と振動が俺達四人を襲った。
フリーター剣を拾う~正し使えるのは一度が限界のようです~ ヘアターバン @syuuzi5155
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