HR前、5分の会話が塵も積もれば恋となる

花見 はな

第1話 たった5分、されど5分

(鈴美 晃ver.)


「はよー。」

「んっ、・・・はよ。」


俺の声に眠そうな声で反応したのは後ろの席に座る【靖南 結真 セイナ ユマ】だ。

肩につくくらいの髪には寝癖の跡があり、大きな瞳は今は眠そうに閉じかけている。

いつも通りドカドカっと俺が椅子をひいて朝の準備をしていても眠そうな顔は変わりなく、むしろ寝かけているというのが正しいかもしれない。

そんな靖南を少しずつ覚醒させるのが俺の日課になっている。


「おーい、靖南。

もう予鈴鳴ったからセンセー来るぞ。」

「・・・。はぁ、しんど。」

「おいおい、まだ始まったばっかだかんな。

しかも、お前が寝惚けてたら俺が起こせ!って言われんだろ。」

「それは頼むわ。」

「はぁー、何が頼むわだよ。

偉そうにすんなよなー。」

「別に偉そうじゃなっ」

「おーい、お前ら先生が来たぞ!」


馬鹿でかい声を出す先生到来で会話が途切れ、ちょっと気まずくなりながら前を向きふと靖南との関係を考えてみた。

今みたいに何の意味もなさない会話を毎朝している俺らは傍から見れば気心知れた友達に見えるのかもしれない。でもそれは少しいや大分違う。

何故ならHRが始まればその日はもう一切話さないからだ。

俺らが会話をするのはこの時間だけ、予鈴が鳴ってからHRが始まるまでのたった5分間。

靖南との関係性をどう言ったら良いか分からないがいつから始まったのかもいつ終わるかも分からない、この時間を俺は案外気にいっている。

別に休み時間に話しかければ良い事を、朝にこだわってしまい今日が始まったばかりなのに、俺は明日の事を考え始めた。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

(靖南 結真ver.)


低血圧でしんどい朝、机で突っ伏していると頭上から聞き馴染みのある声が聞こえてきて顔を上げる。


「はよー。」

「んっ、・・・はよ。」


ドカドカっとうるさい音をたてるこいつに苛立ちを感じなくなり、心地よく思ったのはいつからだろう。

何となく不思議に思い、考えていたら声をかけられた。


「おーい、靖南。

もう予鈴鳴ったからセンセー来るぞ。」


毎朝寝惚けてるうちに話かけて起こしてくる、前の席に座る【鈴美 晃 スズミ コウ】は結構なお人好しだと思う。

寝惚けた頭で適当に返事をするうちに毎朝話しかけてくるくらいだから中々だ。

今日も今日とていつもとあまり変わらないうちに対する愚痴みたいなのを聞き、言い返そうとしたら先生が来て強制シャットダウン。

少し気まずそうな顔をして前を向く鈴美にイラッとする。


(はぁ、明日言い返すしかないじゃん。)


普通の友達なら休み時間にでも言い返せば良いのに、うちらは明日にならないと会話の続きをしない。

別に2人で決めた訳でもなんでもない、ただ何となく予鈴鳴ってから朝のHRまでのたった5分間しかうちらは会話をしない。

面倒だとも何ももう思わないけど、朝がしんどくても学校に来るのはこの意味の無い会話をする為かもしれない。

先生のつまらない話を聞き流しながら、明日について考える。


たった5分、されど5分。


((明日は何を話そうかな・・・。))


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