第45話 一流デザイナー

「よし、じゃあわしはモニターの準備をしてくる。......そうだな、お前もついて来な。色々追加したけりゃその都度言ってくれ」


「はい、分かりました」


2人は冷えた風をかき分け、道を進む。アスファルトの床を靴で踏みつけても、音は鳴らない。


「ちょっと待ってください」


城の前まで来て、警備をしている兵士に止められる。


「安心しろ、わしだ」


「すいません、どうぞお通りください。あの、そちらの女性の方は...?」


「ああ、ただの知り合いだ。別に悪さはせんよ。入れさせてくれ」


「は、はい。どうぞお進みください」


兵士の反応からするに、このお爺さんはかなりの重鎮らしい。


その姿からは想像もできないが、周りの反応からか急に魅力を感じ始めた。


「ここだ、入れ」


お爺さんの呼び声とともに扉は開かれた。そこは、準備室だった。


こんなにも純白で綺麗なお城の中にしては小汚く、狭苦しい。


大量の機材や本などで圧迫感を感じる。


「なぜこんなに、狭い部屋で作業をするんですか?」


「まあ、これくらい圧迫感がある方が作業に集中しやすいだろ。そんなことはいいから。枠はこんな感じで大丈夫か?」


「はい、とてもいいと思います」


はやい...。まだこの部屋について数分も経っていないのにもう土台が完成している。


物置に忘れ去られた古い日記の切れ端の様なノスタルジーさが完璧に再現されている。


「ここに打ち込んでいく。さっき言ってた内容をどう分ければいいんだ?」


「え、どう分けるって...」


「日付だよ。1日にこんなに事が起きるわけないだろ」


「あ、そうですよね...。それは、お爺さんの好きな様にしてください...」


「ああ、そうか。じゃあこっちでやっておく」


こんなにも仕事がはやいなんて。正直、頭がついていけなかった。私の構想をあらかた予想し、こちらに質問を投げかけてくる。


そして、改善点をもう見つけ出す。


やはりプロなんだ。この見た目からは想像できないほどに、この人の頭の中は超回転しているのだろう。


「よし、大体できたぞ」


しばらく経ち、日記がほとんど完成した。


「お、本当ですか!?えーっと...」


楽しみに内容を見ると、デザインから文章まで全て完璧な仕事ぶりだった。


私が伝えた内容をしっかりと盛り込み、さらには話術まで使っている。


年季の入ったその文章は情景をありありと表現できていた。


これは予想以上の完成度だ。


「す、すごいですね...!!」


やや興奮気味の私は目を全開まで開き、見せられた画面に夢中だった。


「他に変えたいところがあるなら言ってくれ。なんでもやってやる」


「変えたいところ...」


念入りに見るが、粗など微塵も見当たらなかった。


私が思い描いていた形がそのまま、むしろそれ以上に再現されていた。



これは、いい式になりそうだ...。

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