第44話 噴水前の睨み合い

「おい、今なんて言った?」


「だがら、お爺さんのデザインのままじゃ式が盛り上がらないですよって」


私は再度、お爺さんの神経を逆撫でするように答えた。


「ほうほう、言ってくれるじゃねえか。まだ見てもいないくせによ」


「見なくてもわかりますよ。まず、お爺さんからはオーラを感じない。一生懸命自己紹介しないと、ただの死に損ないの老ぼれ爺さんですよ?」


こんなにも酷い言葉を使った経験がないのでその声は震えていた。


だが、それ以上にお爺さんは怒った表情を見せる。


その大きい炎をさらに増加するため、私はどんどん薪をくべる。


「言いやがるじゃねえか。じゃあわかった。お前の考えに乗ってやろう。これで俺が思い描いていた盛り上がりにならないとしたら...」


お爺さんはゆっくりと言葉を溜める。その空気に恐怖と殺気を感じた。


「許さないんですよね」


続く言葉を遮る様に私は言う。


「そうだよ」


2人の言葉だけの睨み合いは一旦終わる。


凍えるくらいの風があたりに吹く。


自然と寒さは感じなかった。


「よし、じゃあお前のしたいことを言え。だが18時までにできることにしろよ」


「わかりました」


2人の間に壁はなかった。むしろ打ち解けていたのかもしれない。お爺さんも私を一方的に嫌っている様子はなかった。

やはり一流なのか、こんなにも真正面から批判されたことがないのだろう。


私の言葉に仰天した様な顔をたびたび見せていたが、その顔こそ才能の証明。


デザイナー人生で批判されたことがないなんてあり得ないだろう。


私はそっと息を飲み、考えを口にする。


「その式場に大きいモニターはありますよね?」


「ああ。もちろんだ」


その返事を聞き、私は強く歓喜した。そこでこけてしまったら作戦もクソもない。


「そのモニターにマリアの裏の顔の情報を書けるだけ書いてください。そうですね、画面を出すタイミングはケーキ入刀の直前にしましょう」


意気揚々と発せられた私の言葉には真っ黒い悪魔の様な悪意が蔓延していた。


我ながらなんてどす黒い提案をしているのだろうと思ってしまった。


「モニターにか、それなら間に合うな。ただその情報、わしは何も知らないぞ」


「大丈夫です。私が覚えていますから。

画面に収まりきらないくらいたっぷりと」


私は少し自慢げに笑った。


「あと、画面ですけど少し日記風にしましょうかね。私の声ものせてね」


「日記風か、わかった。じゃあその情報とやらを教えてくれ」


「はい、まずはですね...」


そう聞かれ、私はすらすらと今までマリアにされたことを余すことなく話した。


「それ本当か?嘘言ってねえよな?」


流石の意外さにお爺さんも驚愕して怪しんでくる。


まあ無理もない。お爺さんからのイメージを聞くと、普段は相当猫をかぶっている様だし。


「.........これで以上ですね」


私は全ての事柄を話し終える。


それには謎の達成感と謎の罪悪感があった。


なぜかは分からないが悪いことをしている気になった。


しかし、これから式でしようとしていることは確かに悪いことだ。


いくら腹いせとはいえ、マルクのせっかくの晴れ舞台を壊すなんて...とも思ったが、私はその思考にそっと蓋をし、再度笑った。

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